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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第五話 石守楓という女

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その1

中間テストが終わると、雨の天気が増えてくる。もうそろそろ梅雨入りとなるのだろう。楓は雨がしとしと降る境内を、お守り売り場から眺めてぼんやりとしていた。

 そんな楓に、声をかける者がいる。

「楓さん、お茶にしませんか」

「あ、はい」

楓が座っているところへ、本郷がお茶セットを持ってやってきた。

 高校に入学して外出が増えた楓を、両親はとても喜んだ。楓は中学まで仲のよい友人というものがおらず、登下校以外で外に出ることは全くなかったのだ。

 だが外で遊ぶにはお金が必要になる。今までお小遣いの類を請求したことのない楓に、母親は土曜日だけお守り売りのアルバイトをするように言った。

 なので楓はこうして朝から巫女装束で、お守り売り場に座っているというわけである。


 そして本郷は先日言っていた通り、東京の家から送ってもらったという道具一式を持って、毎週土曜日に弓道場に顔を見せる。午前中は弓を引く合間の休憩に、こうして楓の母親に持たされたお茶をもって、楓のもとへやってくるのだ。

 ――お母さん、なにがしたいんだろう

 なにやら母親の下心が見える気がするが、楓自身は本郷とのお喋りは嫌いではない。

 その後母親の指示で、本郷を昼食に誘って一緒に食べる。午後はお守り売りのかたわら、隣にある部屋で、本郷と一緒に勉強会をする。

 これが、楓のここ最近の土曜日の過ごし方となっていた。



こうして本郷と一緒に行動することが増えて、楓は気付いたことがある。本郷の霊石の副音声は、常時聞こえるものではないということだ。

 石守神社の境内では、もちろん聞こえない。だが学校でも常に副音声が流れているわけではない。どちらかというと、国語科準備室でみんなでお喋りしている時には、聞こえることはあまりない。

 一方で、楓が本郷を校内で見かけて、目で挨拶するのみで済ませる時に、副音声はお喋りになる。

 本郷はよくも悪くも自分というものをよく知っていた。なので校内で見かけても、無理に話しかける必要はない、と楓と寧々に言っていた。

 だがその際には、副音声が胸のことやらその他どうでもいい楓についての感想などを述べてくる。


 これらのことが、本郷の本心であるという検証は置いておくとして。本郷が言葉を飲み込んでいる時、もしくはごまかしているときに、副音声は聞こえてくるのだ。

 ――でもそれって、先輩は人に知られたくない内容、ってことじゃない?

 それを盗み聞きしているに近い自分の体質を、楓はますます本郷に告げ辛くなるのだった。

 そして本郷も、この霊石のことで考えていることがあるらしい。

「実はこのネックレス、外してしまおうと思うのですが、うまくいきません」

「そうなんですか?」

二人でお茶を飲みつつ、本郷がそんな愚痴をこぼした。

「ええ、外していると落ち着かないんです。外すのは風呂に入る時くらいですね」

そもそもどうして外そうと考えたのかと尋ねると、以前会ったあの黒縁眼鏡の男性が原因らしい。


「あのような気味の悪い男に目を付けられる原因など、無いに越したことはありませんから」

と本郷は実に嫌そうな顔をしていた。

『それは仕方ないの』

「石神様」

楓たちの会話に、石神様が割り入ってきた。どうやら話を聞いていたらしい。

『霊石に篭っているのはそやつの幼少の頃の心であろう。幼少の時分に思い悩んだことは、人として在るための根幹ともなる。それか欠ければ、感情の無い欠陥人間ともなり得るぞ。特に今は、情緒の発達を取り戻そうとしている最中であろう』

「……そうなんだ」

「石神様は、なんと?」

境内で話していて、石神様が会話に加わることはたまにある。なので本郷も、最近は驚かなくなってきた。

「えっと、小さい頃に思ったりしたことは人間にとって、とても大事だから仕方ないこと?だそうです」

石神様の言葉を大きく省略した気がするが、石神様の話は小難しい言い回しが多い上に長い。それゆえうまく説明できなかったのだ。

 それでも本郷は一応納得できたらしい。

「そういうことですか」

と頷いていた。さすが頭がいい人は理解力が違う。


 楓は妙なことで感心していると、本郷が咳払いをした。

「それはそうと楓さん、月曜日の放課後、時間はありますか?」

「……はい?」

突然のことに楓は首を傾げる。

 本郷は楓を目を細めて見ると、困ったように微笑んだ。

「実は少々、頼みごとが発生しまして」

「頼みごと、ですか」

楓につい最近、頼みごとをされて怖い思いをした記憶がよみがえる。身構える楓に対して、本郷はお茶を一口含んだ。

「つきましては、僕の家に来ていただきたいのです」

「先輩の家、ですか?」

一度学校帰りに、本郷の住むマンションの前まで行ったことはある。あれは新井先生のアパートからの帰り道だった。

「ええ、ぜひ」

楓はその後数回問答をしたが、結局本郷宅に伺うことになった。

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