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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第四話 ビスクドール

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その8

それから週末になり、郷土歴史研究会のメンバーで、楓は再び隣町の駅までやってきた。本日も新井先生は同行できない。定期テスト前で忙しいらしい。

「うーん、天気がよくてオカルト日和!」

寧々が謎なことを言った。

「オカルト日和?」

「そう、あんまり天気悪いと本当に怖いじゃない?このくらい明るいと怖さも半減する」

なんとなくわかるような、わからないような理屈である。だが楓の心が和んだことは確かである。

 人形の入った紙袋は、本郷の手に提げられている。本郷はわざわざ楓を迎えに来てくれて、紙袋を預かってくれたのだ。大感謝である。


「帰りにうどん食べていこうよ!」

駅前にちょうどうどんの店があったので、寧々が提案する。

「前回はそのような余裕は全くありませんでしたから、いいかもしれませんね」

意外にも本郷が同意した。

 確かに前回は、早く人形を持ち帰りたくて寄り道らしいことをしなかった。今日は人形を届ければ、晴れて自由の身なのだ。

「帰りの楽しみができたところで、テンションを上げていこうではないか、楓」

莉奈が楓の肩をポンポンと叩いて、にっこり笑った。

「はい、楽しみです」

楓も釣られて微笑んだ。

「やはり人数が多いと、心強いですね」

本郷が楓を見て目を細める。


「や、あの、前も先輩についてきてもらって、すごく心強かったですよ?」

楓は本郷に弁解する。なにしろ自分一人では、おそらく人形の館に入れたかも怪しい。

 慌てる楓に、本郷が小さく笑った。

「ちゃんとわかってますよ。では楓さん、行きましょう」

「はいっ」

先に立って歩く本郷に、楓はついていく。

「ちょいと、楓さんや」

寧々が楓と横に並んで、顔を寄せてきた。

「なに?」

首を傾げる楓に、寧々が小声で囁く。

「いつから本郷先輩はあなたを、『楓さん』と呼んでいるのかな?」

にやっと笑う寧々に、楓は頬を赤くする。


「えっと、先輩がうちに弓道をしにきて、家族はみんな石守だからって、その……」

楓は上手く説明できずに、思いつくままに喋る。

「ほほう、先輩は段取り上手ですなぁ」

「段取りって」

「おねーちゃんと言ってたんだぁ。楓ちゃんの巫女さん姿、一体誰に撮ってもらったんだろうね、って」

楓は無言になる。やましいことなど無いのだが、本郷に撮ってもらったとは、なんとなく言い辛い。

「家族に撮ってもらって、あんなに緊張しますかねぇ」

寧々の追求に、楓は赤い顔で俯く。すると後ろから手が伸びてきて、頭を撫でられた。

「莉奈先輩」

「うむ、楓は実にかわいい。そのまま大きくなるんだぞ?」

「先輩、私もう成長期は終わったみたいです」

そんな会話が、前を行く本郷に聞こえていたのかは定かではない。


 四人でわいわいと騒いでいると、道のりはあっという間であった。

「あそこです」

人形の館の看板が見えてきたところで、本郷が一旦立ち止まった。前回はこの時点で緊張していたのだが、今日は平気だ。やはり人数がいるというのは心強い。

 しかし人形の館にも、前回と違うことがある。

「なんか、誰かいるね?」

寧々が首を傾げる。そう、門の前で男性二人が口論しているようなのだ。

「取り込み中なら、少し時間を置いた方がいいかもな」

莉奈がそう言うと、男性の片方がこちらに気付いた。捕まえようとするもう一人の男性を振りほどいて、その男性はこちらに走ってくる。その剣幕に楓は怖くなった。


「楓さんたちは後ろに下がって」

本郷が楓たちを後ろに庇った。だが男性は、本郷に向かってきているようだった。

「それだろう、寄越せ!」

本郷に突進してくる男性の様子に、本郷はとっさに紙袋を莉奈に渡した。

「その人形を寄越せ!」

手渡された紙袋を追って莉奈に手を伸ばした男性に対して、本郷がその腕を捕らえる。それを軽くひねり上げるようにすると、男性が悲鳴を上げた。

「なにをする!?」

「なにをするとは、こっちの台詞です。乱暴は止めて頂きたいですね」

男性は本郷を振りほどこうとしているが、どうやっているのか、本郷の拘束は外れない。

「大丈夫ですか!?」

口論していた相手の男性も、こちらにやってきた。そしてなおも暴れようとする男性を、ギロリとにらむ。

「お前、これ以上騒ぐと警察を呼ぶぞ!」

男性も本郷を手伝って、暴れる男性を取り押さえる。


「くそっ、人形を寄越せ!」

尚も人形を要求する男に、楓は寧々と二人で莉奈の後ろに隠れた。

「おねーちゃん、警察呼ぶ?」

「その方がよさそうだな」

寧々が自分のスマホから、電話をかけようとしていると。

「警察沙汰とは、いけないねぇ」

間延びした声が、割って入った。

「きゃっ!」

突然真後ろから聞こえた声に、楓は驚いて振り返る。

「ああ、驚いた?ごめんねぇ」

へらりと笑ったのは、ひょろりとした体型の中年の男性だった。色白で、大きな黒縁眼鏡が印象的である。


「なんだ、あなたは」

莉奈が厳しい表情で、黒縁眼鏡の男性をにらむ。だがあちらはそんなことには構わず、莉奈の持つ紙袋を覗いてきた。

「ああ、これはもう駄目だなぁ」

黒縁眼鏡の男性は、そう言ってため息をついた。

「なに!?」

これに反応したのは、本郷らに取り押さえられていた男性である。

「ただの珍しい人形に成り下がってる。こんなものに興味はないなぁ」

ああ残念だ、と黒縁眼鏡の男性は嘆いた。

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