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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第四話 ビスクドール

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その7

そろそろ帰ろうという楓と本郷を、北川が玄関口で見送ってくれた。

「それじゃあ来週の日曜日に、神社へ取りに伺います。よろしくお願いします」

「はい」

深々と頭を下げる北川に、楓は短く返事をする。内心を言うならば、こんなオカルト物体を持ち帰るなんて嫌である。そんな楓の心境を察したのか、本郷が楓の頭を撫でてきた。

 人形の入った紙袋は、本郷の手に提げられていた。重いというのもあるが、楓に持たせて恐怖のあまり落としてしまう危険があると、本郷に指摘されたからだ。無いとは言えない楓は、素直に本郷にお願いした。その代わり、北川にもらったお祓い代金は、楓の背中のリュックにしまわれている。

「それじゃあ、お邪魔しました」

北川に挨拶すると、楓と本郷は人形の館を後にした。


 二人で駅を目指す途中ふと、楓は立ち止まって周囲を見回した。突然立ち止まった楓を、本郷が振り返る。

「楓さん、どうかしましたか?」

「えっと、いや」

楓はしばしキョロキョロと周囲を見る。

 ――誰かに、見られている気がしたんだけどな

 だが、誰も見当たらない。きっと気にしすぎているのだろう。あのような人形の怪異を経験したばかりで、神経が昂ぶっているのだ。楓は自分をそう納得させる。

「なんでもないです、気のせいかな」

「そうですか?」

いろいろありすぎて疲れてしまった楓は、本郷に繋がれた手を引かれるまま、駅に向かって歩き出した。そして帰りの電車の中で、楓は本郷にもたれかかって眠ってしまった。


 それから帰り道、本郷は石守神社までついてきてくれた。

「わざわざ長い階段を上ってもらって、すまないね」

「いえ、これを楓さんも持ちたくないように思えましたので」

本郷が困ったように微笑んで、出迎えた父親に紙袋を渡した。父親がその場で紙袋から中身を取り出すと、楓はそっと本郷の背中に隠れた。できるだけ、あの人形から距離をとりたかったのだ。

「これはまた、楓が苦手な部類のものだね」

父親もしげしげと人形を眺めて、苦笑した。

「もうね、すっごい怖かった。たくさんある人形が、一斉に震えるし」

本郷の背中越しに文句を言う楓に、父親も目を丸くする。本物のオカルト物件は、石守神社でも滅多にないのだ。

「それは怖かったな。本郷くんもついでにお祓いしよう。なにか悪いものがついていてもいけない」

こうして、帰った足でそのままお祓いをすることになった。

『ふーむ、これはまた一段と苦いな』

石神様がそんな感想を言った。

 ――この念、ママって言ってた

 寂しい子供の思いが、人形についてしまったのかもしれない。そう考えると、楓には人形の顔が泣いているようにも見えた。



連休が明けて、学校の昼休み。

 楓はいつものように国語科準備室で弁当を食べていた。今日は本郷も一緒である。

「楓ちゃん、お土産!」

沖縄に行ったらしく、ちょっと困り顔のシーサーのヌイグルミを貰った。

「わぁ、ありがとう」

 ――あの人形も、こんなのだったら怖くないのに

ムニムニとヌイグルミを揉んでいる楓を、本郷が目を細めて眺めていた。

 橋本姉妹から沖縄の話を聞いていると、ドアがガラリと開いた。

「ああ、やっぱりここにいた」

「新井先生、こんにちは」

今日始めて会う新井先生に、楓は挨拶をする。


「石守さん先日はありがとうね、瑞樹も感謝していたわ」

「それは、どうも……」

あれから、人形は神殿に鍵をかけて置いてある。古い物なのでできるだけ石神様のそばに置いておこうというのもある。だが一番の理由は自宅に置くのを楓が怖がったからである。楓は早くアレを回収してほしい気持ちで一杯だった。

「なになに、なんの話し?」

「あのね……」

興味深々の寧々に、楓は連休に訪れた人形の館での顛末を語った。

「なにそれ!?私も行きたかった!!」

オカルト好きだと言う寧々らしい言葉である。楓としても、寧々が一緒だったならば恐怖が和らいだかもしれないと思う。


「ですが、さすがに衝撃でしたよ、あれは」

楓の気持ちを思いやってか、本郷が苦笑してそう言った。

「その人形、いっそ一度見てみたいな」

莉奈も興味を示したようで、前のめりになる。

「今は大人しいですよ?お祓い済んだし」

あの恐怖を一緒に語れるのは、本郷しかいない。それは幸いなのか残念なのかは、楓としても判断が付けにくい。

 四人で盛り上がっていると、新井先生が困った顔をした。

「あのね、実は人形の受け取りなんだけど。ちょっと待ってももらうことになりそうなの」

「え?」

一刻も早くアレを持ち去ってもらいたい楓は、新井先生の言葉に目を丸くする。


「実はね、瑞樹は今怪我をして歩けないのよ」

新井先生の説明によると、楓たちが帰った後、階段から落ちて怪我をしたらしい。全治一ヶ月程度で、現在松葉杖を使用している状態らしい。

「それは大変ですね」

本郷が驚いているのをよそに、楓は気になって仕方がない。

「あの人形、取りに来ないとか……」

「瑞樹は車に乗らないから、歩けるようにならないと無理でしょうねぇ」

新井先生の言葉に、楓は肩を落として俯いた。なんということだろうか。もうしばらくあの人形とは別れられないとは。

「しかし、神社に置いておくのも危険では?あの宝石、本物かもしれないんですよね?」

本郷が落ち込む楓を見つつも、心配事を口にした。

「……そうなんです」


楓が反応したことを考えて、父親もあの宝石は本物ではないかと疑っている。

 父親は楓のような体質ではないが、それでも楓をよく知っていた。両親は楓を幼少期に理解してやれなかったことを悔いて、理解者であった祖父が亡くなった今、楓と向き合おうとしてくれている。

 とにかくあのまま神社に置いておくことは、いろいろな面から考えて良くないのだ。楓が困り顔で悩んでいると。

「その人形を、届けてやるのがベストではないか?」

莉奈がさらりと言った。

「さんせーい!私もその人形の館に興味ある!」

寧々も元気よく手をあげた。

「もしそうしてもらえるなら、私から連絡しておくわ」

新井先生も笑顔で請け負う。


 なにやら、楓の望まない方向に話が進もうとしている気がする。

 ――行きたくない、行きたくないよ

 けれどもこのままでは、あの人形が石守神社に長期滞在してしまう。それも避けたい。どうするべきか、楓が悩んでいると、本郷が楓に助言してきた。

「楓さん、みんなに素直にお願いしてみては?人数が増えたら、きっと怖さも薄れますよ」

最善は北川がすぐに人形を取りに来てくれることだが、それが叶わないならよりよい方を選べと、本郷が言う。

「莉奈先輩、寧々ちゃん、お願い一緒に行って!」

楓は橋本姉妹に頭を下げる。

 ちなみに本郷は、楓の中ですでに同行メンバー入りをしている。


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