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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第三話 郷土歴史研究会

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その4

「着いたー!」

「涼しいな」

寧々と莉奈が、深呼吸をしている。

 公園がある山頂付近に到着すると、一同は小休止をとることにした。

「今日はあっついねー」

「だね」

楓は寧々と並んで座り、持ってきたお菓子を交換することにした。友人とのこんな些細なやり取りも、楓はとても楽しい。

「そんなに高い山じゃないのに、景色いいねー」

「ほんとだ、見晴らしがいいね」

座った場所から見える景色に、楓は寧々と二人で歓声を上げる。


「古墳って、こんな景色のいい場所にあるんだね」

楓がそんな感想を抱くと、新井先生が楓の横に座る。

「案外惜しいかもよ、石守さん。景色がいいから、ここに古墳を作ったんじゃないからしら」

新井先生の言っていることの意味がよくわからず、楓は首を傾げる。

「景色のいい場所に墓を立てるのは、金持ちのステータスというわけだな」

新井先生の言葉を補足するように、寧々の隣で莉奈がそんなことを言う。

「なんか納得かも。今でも日当たりがよかったり、ナントカビューなお墓って、超高いってテレビで言ってたもんね」

寧々の意見に、楓もなるほどと頷いた。お墓事情などは、古代も現代も変わらないということかもしれない。


 休憩が終わったら、公園の案内板にしたがって、いよいよ古墳巡りである。この公園には、複数の古墳ポイントがあり、それぞれに特徴があるらしい。

 第一ポイントと記されている場所から、一同は順番に見ていく。古墳でも様々な種類があるらしい。

 今ではむき出しの岩が並んでいるだけに見えるものも、当時は最先端のお墓だったのかもしれないと思うと、楓はなにやら微笑ましい気持ちにすらなってくる。

「みんなと同じお墓じゃ嫌だったのかな」

「同じ人間の考えることですからね。今の僕等の感覚と、案外似ているのかもしれませんよ」

楓の覗いている古墳を、本郷が横に立って眺める。


 楓は本郷と並んで、古墳から見える景色を楽しんでいた。他のみんなはずっと先に進んでいる。楓ののんびりしたペースに、本郷が合わせてくれているようだ。

「なんだかここに立っていると、ちょっと偉くなった気分になれますね」

高い場所にいるだけで、気分が高揚してくるのだから、人間とは単純なものだ。楓がそう言うと。

「だからきっと、偉い人は高い場所が好きなんですよ」

「あは、そうかも」

楓が本郷と二人で笑いあった。

「そうなると、一番高い場所にある古墳が、一番偉い人のものってことですかね?」

「たぶん、そういうことではないでしょうかね」


 楓は本郷とそんな会話をしつつ、涼しい山の空気を満喫しながら、一番高い場所にある古墳ポイントにやってきた。

「ここは一段と眺めがいいです」

「この景色をずっと見下ろしているのは、気分がいいでしょうね」

二人で並んで立っていると。

『神よ』

声が聞こえた。

「……え?」

はっきりとした、地鳴りのような声だった。

『神が参られた』

『神よ、どうか……』

『神よ』


いくつもの声が、輪唱のように広がっていく。

「え、いや……」

楓の周りを、声が渦巻く。

『神よ、救いたまえ』

「石守さん?どうしました」

本郷の声が聞こえ辛い。声に、侵食されていく。

 ――なにこれ、なにこれ!

「わたしは、そんなんじゃないよ」

「石守さん、しっかり」

本郷に腕を掴まれた。

『神よ、我等に救いを』

『『『神よ!』』』

「いやっ!」

 ――やめて、私は神様じゃない!

たまらずに、楓はその場にしゃがみこむ。


 身を堅くして震える楓を、温かいものが包み込んだ。

「大丈夫ですか?」

楓の耳に、ヘッドフォンが当てられる。石の声が少し小さくなった。

「なにか、聞こえてしまいましたか?」

本郷の声がヘッドフォン越しに、楓の耳の側で聞こえる。しゃがみこんだ楓を、本郷が抱きしめていた。トクトクと感じる本郷の心音に、楓はたまらない安心感を覚えた。

「……せんぱいぃ」

泣きそうになるのを堪える楓の背中を、本郷が軽く叩いてくれた。

「石守さんは最初から、気乗りしない様子でしたしね。怖いと言ってくれてよかったのですよ」

「だって、こんなんだとは、思ってなかったぁ……」

ヘッドフォン越しにも、はっきりと聞こえる神を求める声。この声から、早く離れたかった。


 楓の気持ちを察したのか、

「ここから離れましょう。立てますか」

本郷が抱きしめる腕を緩めて、楓に確認してきた。

「はい……あれ」

楓はすぐに立ち上がろうとするが、腰から下がふにゃりと崩れてしまう。数回挑戦するも、その都度地面に逆戻りをする羽目になる。

「うぅ、なんで?」

楓はもう、堪えていた涙が溢れ出してきていた。

「どうやら、腰が抜けてしまっているようですね」

泣き出した楓に、本郷が頭を撫でた。


「みんなはもう先に行っています。ほら、背中に乗ってください」

本郷が楓の前に背中を向けて跪いた。

「……私、重いです、きっと」

恥ずかしいのと情けないのとで、楓の頭の中はぐしゃぐしゃだった。

「そうだとしても、ご心配なく。これでも鍛えていますから」

『ムッチリちゃんはムッチリなんであって、重くはないぜ』

主音声と副音声が同時に言った。ムッチリと重いは違うらしい。楓は泣きながら変なことに納得してしまった。

 本郷との押し問答に、結局楓の方が折れた。

 楓は本郷の背中に乗り、首にしがみ付いた。本郷が楓のお尻を支えて、立ち上がる。


 ――わ、視線が高い

 本郷の背中から見えるいつもと違う視界に、楓の涙が引っ込んだ。

「おや、泣き止んだようですね」

本郷が肩越しに楓を見る。すぐに泣いてすぐに泣き止む。まるで子供のようだ、と楓は落ち込む。

「……すみません、ご迷惑をおかけして」

「迷惑をかけたのはお互い様です」

本郷はにこりと笑ってみせると、みんながいるであろう場所に向かって歩き出した。落ちないように、楓はぎゅっと本郷にくっついた。

 ――男の人に、こんなにくっついたこと、ない

 楓の心臓は、ドキドキが止まらなかった。


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