美化委員
おれと彩美は美化委員に属している。普段は特に仕事なんてないんだがどこかの誰かが学校の壁に落書きをしたらしい。おれ達二人は落書きを消す仕事を委員会から命じられた。
「早く帰りたいもんだ」
脚立を支えながらおれはそう呟いた。
「帰って何をするの?」
彩美は片手に落書きを消すためのペンキを持ち脚立を登っていった。
「何かをしたいとかじゃなく、ただ単純に学校に居たくないだけだよ」
「どうして?」
「居心地が悪いからさ、おれみたいな奴には学校は合わないのさ」
「ふーん」
大抵の人間には理解できないだろう。普通にしていれば高校生活はそれなりに楽しいものだそうですから。そんなことを考えていたら頭上から何か降ってきた。ペンキ入りのバケツだ。どうやら彩美が手を滑らしてひっくり返してしまったらしい。
「ぶっかけ、とてもいやらしい響きね化山君」
どうしたことだろうか?謝罪の言葉がない。どうやら彩美も相当焦っているようだ、ここは人としての器の大きさを見せる所だ、紳士的に諭してあげなければ。
「そんなことより、言うべきことがあるんじゃないか?」
彩美は少し黙った。
「さっきから私のパンツばかり見ていやらしい」
こいつは何を言っているんだ。おれは彩美がひっくり返したバケツを頭からすっぽり被っている、パンツなんて見える訳がない。
「おれの視界は真っ暗だよ」
「視界が真っ暗って、やだどこに頭を突っ込んでいるのよ」
「お前がひっくり返したバケツだよおおお」
怒ってしまった。
「そんなことより化山君、この落書きって何かの魔法陣じゃないかしら」
彩美の言う通り、この落書きはその類いのものだ。別に専門家ではないし、そこまで詳しい訳でもないが、何かしらパワーを感じる。そんな落書きだ。
「かもな」
「落書き犯はここで悪魔でも呼び出そうとしたのかしら」
「タチの悪い冗談だ」
おれはそう呟いた。