偏執狂~モノマニア~
会社と家の往復。恋人いない暦、生まれた年から三十年。
休日は家にこもりきり。掃除嫌い。洗濯嫌い。
だから部屋は汚い。それのどこが悪い?
人間関係最悪。みんなわたしを無視する。でも、わたしは何も悪くない。
片思い中の相手に五度目の告白。照れなくていいのに。でも、きょうはきっぱりと断られる。
「あんたにははっきりと言わなきゃわからないんだな。俺に付きまとうのはもう止めてくれ。気持ち悪いんだよ」
すごい顔。恐怖? 嫌悪? 怯え? なぜ?
わたしは何も悪くない。
毎日、毎日、電話するのはあなたが好きだから。あなたをずっと見てるのは、あなたのことを愛しているから。こんなに想われたら、誰でもわたしのこと好きになるはず。そうでしょ。
でも、わたしは嫌われている? なぜよ。
そう。そうよ。悪いのは彼。わたしは悪くない。
ああ、頭が痛い。わたしは何もしていないのに。
少し風邪気味なのかも。何もかも彼のせいだ。
仕方なくドラッグストアに薬を買いに行く。いつも買う風邪薬を手に取り、レジに行く。料金を払い、釣り銭をもらう。
「ありがとうございました」
白衣を着た男性店員がにこやかにわたしに微笑みかける。浅黒い肌に白い歯。
何? この優しい笑みは。
ああ、きっとこの笑みはわたしだけに向けられたに違いない。他の客に向ける笑顔とは違うもの。
きっと、わたしのことが好きになったに違いない。
明日からまた楽しくなる。
わたしは毎日ここに来る。
彼もきっと、そう望んでいるに決まっている。
偏執狂:関心を持つ特定の事に病的に熱中し、常軌を逸した行動に走る傾向の有る△こと(人)。
Shin Meikai Kokugo Dictionary, 5th edition (C) Sanseido Co., Ltd. 1972,1974,1981,1989,1997