エルダ編 1
●魔法国家エルダ 城下町
エリス「すっかり、遅くなりましたね」
大荷物を抱えた二人。エンディは本を読みながら、エリスはその前を歩く。
エンディ「ああ、完全に暗くなる前に到着出来てよかったよ」
本から目を離さずエンディはボヤク。
エリス「さすが魔導のメッカですね」
周りの風景を見ながらエリスは呟く。町中には魔法関連の店が建ち並んでいる。
その時、エリスは空から何かが降ってきている事に気付き空を見上げる。
エリス「わぁ…」
空を見上げ、エリスは息を飲む。
天を支配する小さな光が星のように薄闇がかった空に広がる。
それは雪のように降り積もる光の粒子だった。。その、幻想的な場景にエリスは手を合わせ感嘆のため息を漏らした。
この現象こそが、エルダを魔法都市と呼ばせる所以でもある。
魔力素子が視認可能ほどの高濃度で町中を漂ってい。
それは、ホットスポットと呼ばれる魔力の発生地点に囲まれているためである。
この国は他の国と比べものにならないほど魔法技術が発達しているのはそのためである。
エンディのいたバリスラン共和国が騎士の国と呼ばれる程に、武芸が盛んなのに対し、この国は魔法分野の産業を主にしている。
エリス「エンディ様見て下さい。とっても綺麗です」
エンディ「うん」
気のない言葉を返すエンディ。見ると例の『萌え百科事典』を熟読している最中だった。
エリス「また…それを読んでるのですか」
呆れた顔で、本のをのぞき込むエリス。
そこにはなにやら腕組みをした女の子が挑発的な顔で此方を睨み付けているイラストだった。その絵を見て、エリスは少し困った顔で…
エリス「コレなんかシオン様に似ていません」
エンディ「これは…『つんでれ』だって。」
エンディ「えっと、解釈は幾つかあって、好意を寄せている相手に素直になれない人物が、次第に―」
エリス(まさしくシオン様そのものですね)
苦笑するエリス。と。どこでエンディは本を閉じ鞄にしまうと、空を見上げる。
エンディ「エンジェル・ダストか。コレを見ると此処に来たって感じするな」
エンディは、穏やかな表情で空を見上げる。
エリス「これから何処に?」
エンディ「まずは城に。シオンに逢い行く」
エリス「いきなり…ですか」
エリスは引きつった笑みを浮かべる。
●魔法国家エルダ 城壁前の大門前、
警備兵1「止まれ!ここから先は許可の無い者は立ち入り禁止だ」
無遠慮に通ろうとするエンディの行く手を槍で遮る警備兵。エンディは何食わぬ顔で、
エンディ「ちょうどいいや。シオンに逢いたいんだけど、呼んできてくれないかな」
エリス「ちょ…エンディ様」
流石に慌てるエリス。
警備兵2「貴様!姫様を呼び捨てに!」
警備兵1「怪しい奴らだな。拘束する」
槍の切っ先をエンディに向け叫ぶ警備兵。
エリス「あのすいません。少し話しを…」
両手をあげ、エリスは説得を心みる…が
エンディ「ちょっと、待ってくれよ。俺はシオンに会いにきだだけなんだけど」
エリス「エンディー様!話をややこしくしないで下さい」
その様子を遠巻きで、一人の女性が見ていた。
ミランダ「あれは…」
●城内 廊下
ブツブツと独り言を言いながら歩くシオン
(久しぶりね…は陳腐ね)
数分前、
自室の事務机突っ伏しているシオン。
シオン「む~、いつになたっら来るのよ…あのバカ」
コンコンと扉を叩く音。
シオン「入っていいわよ」
ぶっきらぼうに言うシオン。一応体を起こし佇まいを正す。だが、入ってきたのがミランダと分かると再び机に突っ伏す。
シオン「なんだ…アンタか」
ミランダ「まだふて腐れているのですか」
シオン「別にふて腐れてなんか…」
ミランダ「ご目当ての御方が到着しましたよ」
シオン「ホント!」
嬉々とした顔で立ち上がるシオン。がすぐに、惚けた顔をする。
咳払いをして、
シオン「別に私は誰も待ってなどいまでんでしてが。この忙しい時に一体どなたが来られたのかしら」
ミランダは呆れた表情をしながら、
ミランダ「エンディ様が到着しました。今は西塔の迎賓館でまって貰っいただいております。どうします。お忙しいのなら、後日、改めてお会いすると伝えしますが」
シオン「だっ、誰も会わないなんて言って無いでしょう。少ししたら向かうと伝えておいて」
ミランダ「かしこまりました」
部屋を出て行くミランダ。
そんなこんなで早足で歩くシオン。
シオン(会いたかったわ…なんて口が裂けても言えない)
シオン(全く、貴方はまた何を馬鹿な事を企んでますの?)
シオン(うん…これでいこう)
シオン「あっ」
エンディの姿が見えて、微かに顔を綻ばせるシオン。
エリス「助かりました、ミランダさん」
ミランダ「いえ、ですが今度からちゃんとアポイントをとってくださいね」
エリス「はい、ご迷惑をかけてすいません」
エリスが頭を下げ謝っている中、エンディはまた例の本を読みふけっている。
エリス「ちょっとエンディ様」
さすがにその様子をたしなめるエリス。
エンディ「…うん…」
エンディは不意にミランダに近づき、目をジッと見つめる。
息がかかるくらい近い距離。さすがに、ミランダも顔を赤らめる。
ミランダ「あの、エンディ様何を」
エンディ「いや…この眼鏡っ子というやつを…」
ミランダ「ひっ…姫様」
振り返るエンディ。そこには下を向き、ナワナワと震えるシオンの姿。
エンディ「やぁ、シオン久しぶり」
シオン「とりあえず…」
エンディ「へっ」
シオン「頭を冷やせ!バカァーーーっっっ!」
シオンの叫びと共に、エンディに向かい氷結の冷気が降り注ぐ。そして氷漬けとなるエンディ。
シオン「ふん!」
シオンは踵を返しその場を後にする。
二時間後、
エンディ「ヘッ…ハッ…ブェクシュ!!」
ソファーに座った状態で毛布にくるまりガタガタと震えるエンディ
エンディ「全く、シオンは相変わらずよく解らないな…何で怒ったんだろう」
エリス「自業自得です」
よこであきれ顔のエリスがエンディのぬれた服を干している。
エンディ「えっ、シオンがなんで怒ったか分かるの?」
驚いた顔でエリスを見るエンディ。
エリス「それは、乙女の秘密にしておきます」
エンディ「よく分かんないな」
ソファーにもたれかかりながら、エンディは鼻水を啜る。
シオン「頭は冷えましたか」
そこに再び、ミランダを連れて現れたシオン。
エンディ「いやぁ、体の芯までキンキンに」
笑いながら言うエンディに、シオンは顔を顰める。
シオン「ふん。相変わらず巫山戯ていますわね」
シオン「でっ、貴方は結局なんの用でこんな所まできたんですか?私は忙しいのです」
ミランダ「ええ。エンディ様が来るのが楽しみで、今か今かとやきもきしていたせいで、公務が手につかず、仕事が山積みでございます」
すまし顔で言うミランダ。シオンは慌てて訂正する。
シオン「ちょ、アンタ何言ってんのよ」
エンディ「ははっ、嬉しいな。僕もシオンに会いたいと思ってたんだ」
シオン「なっ」
ボンと沸騰したように顔を赤らめるシオン。
シオン「私は別に貴方の間抜け面なんて、見たくもありませんでしたわ」
エンディ「ったく、昔馴染みだってのに冷たいな」
シオン「でっ、結局、何故貴方がここにいるの?手紙にはモエだの訳の分からない事が書
いてありましたが…」
エンディ「コレの意味を調べようと思ってね」
シオン「なんです…この訳の分からない本は」
エンディはシオンに萌え百科事典を手渡す。ぱらぱらとページをめくりながら、怪訝な顔をするシオン。
エンディ「つまり、その本に出てくる女の子に似ている人を見つけ、その生態を観察して、萌えについての論文を書こうかなと」
その説明を聞いた途端、シオンは持っている本をしたに叩きすてる。
エンディ「ちょっと、これ、異界の希少本なんだよ」
シオン「知りません!そんな事…女の子を観察って…ふっ…巫山戯てるんですか!不潔です!破廉恥です!デュラス王もよくそんな理由で旅に出る事を許可しましたわね…」
そこまで言って、ハッとする顔をする。
シオン「まさか…前のように無断で国外に出てきたという訳ではないでしょうね」
エンディ「そんなわけないだろう。あの後二年間、エリス以外に護衛官が二人もついて四六時中監視される羽目になったからね。あんな窮屈な思いはもう御免だよ」
シオン「だったら、どうやって」
エンディは腰から聖剣を抜いてシオンに見せる。
エンディ「これさ」
ミランダ「それは…」
剣をみてなにか引っかかるような顔をするミランダ。
シオン「また刀剣鍛冶ですか。以外ですね。貴方は一度飽きた事には興味を示さないと思っていましたが」
エンディ「偏見だよ。それより面白そうな事を見つけているだけだよ」
ミランダ「姫様…あれは…聖剣では…ないですか」
あきれ顔のシオン。
シオン「ああ、レプリカですか。以前作りたいとか言ってましたね」
ミランダ「いえ…そうでは無く…」
エンディ「レプリカならとっくの昔に完成したよ。そうじゃなくてこれは本物の方」
シオン「はぁ?」
エンディ「フィールド・ワークをするために、守護者として魔神の完全討伐をする事を約束したんだ」
シオン「何を…そんな世迷い言…」
心底驚くだがあまりにもあり得ない状況に怪訝な顔をするシオン。
エリス「あの…ホントの事なんです。選定の儀で聖剣を抜いてしまったから、もう国内はてんやわんやの大騒ぎで…」
エリス「あの通り、興味を持ったことを知るためには手段を選ばない方ですから」
シオン「五月蠅い。それ位分かってるわよ」
シオンはエリスをキッと睨みつける。
エリス「ははっ」
愛想笑いで誤魔化すエリス。
エンディ「そう…抜いちゃったからね…あんまりのんびりもしていられないんだ」
突然声のトーンを変え、真面目な顔をするエンディ。
エリス「どういう事です?」
エンディ「聖剣の封印を解いたという事は、対となる七つの宝珠の封印も弱まったって事なんだよ。早く適合者を見つけて仲間になってもらうのが一番なんだけど…それが出来ない場合は封印…最悪破壊しなければ悪用される可能性がある。だから、まずトラバルの遺跡に行く必要がある。今日ここに来たのはあそこの調査許可を貰う為でもあるんだ」
エリス「でも、宝珠は適合者しか扱う事が出来ないのでは…」
エンディ「聖剣と違って、あれはエネルギーの結晶体だ。それだけで強い力を発している。本来の固有技能を利用出来なくても、殲滅兵器の動力としての転用する事も出来る。実際、大じいさまの時はそんな事もあったらしい…その時は地図が書き換わる程の大事になったらしいけど」
ガタンと、椅子が倒れ大きな音がする。
シオンが突然立ち上がった為だ。
シオン「…っ」
シオンは立ち上がったまま動かない。だが、その表情は何かにお怯えるように震え、顔面蒼白になっていた。
エリス「シオン…様?」
怪訝な顔をするエリス。エンディは悲痛な面持ちで、
エンディ「ゴメン。少し無神経すぎた」
震えるシオンの方に手を置くエンディ。その瞬間、シオンの方がびくりと震える。
エンディ「大丈夫。あそこには…俺だけで行くつもりだから」
エリス「ちょっ…何を言ってるんですか!私もついて行きます」
エンディ「でも危険だよ。そんな所に女の子を…」
エリス「私は、エンディ様の護衛なんです。それがエンディ様の思いやりであっても、私にとっては侮辱に等しい行為です」
エンディ「うん…そんなに言うなら…でもホントに危険だよ」
エリス「尚更そんな所に一人で行かせられません!」
固まったままのシオン。ミランダは心配そうな顔で、
ミランダ(シオン様…まだあの時の事を…)