8 登場。爆笑。
「『人を呪わば穴二つ』って言葉知ってる?これってさ、本当のことなんだよ。呪う対象と自分自身を貶める事だからね。」
「・・・どういうことだ?」
新谷空は大きく溜め息を吐きけだるそうに説明を始めた。こっちが溜め息つきたいわ!非現実的なものが実際にあると言われて混乱も一押しだっつーのに死ぬのは確実なんて言われた身としては暴れたいわ!
俺も誠も今までの人生で全く縁もゆかりも無い出来事と世界に大分頭が参ってたんだろうな。コチラのことなどおかまいなく新谷はしゃべりだした。
「はーっ・・・本当ならここで私は手を引く所なんだけど出血大サービスの情報提供だから。
・・・この『死』を込めた呪いを解くにはこちらとしても命をかけることになるんだ。長期間的にじわじわとなぶり殺す呪いならともかく、こうも短期間で死を与えるものは相当強い呪力ってことで・・あー・・まぁ解くのは難しいってことかな。」
新谷は頭をかきつつ言いづらそうに言い放った。誠を見ると新谷を睨んでいると思ったらいきなり新谷に詰め寄り再度怒鳴った。
「なんだよそれは!そもそも何で昊が死ななきゃいけないんだ!?どうにかしろよアンタ!!」
「誠!」
こいつ今までの話でパニックおこして新谷に八つ当たりかましてやがる!?誠は怒鳴りながらも新谷の胸ぐらを掴みにかかった。
俺はソレを止めとうと誠に手を伸ばした瞬間ー
「主に害するのは許さんぞ。人間。」
「「!?」」
誠と新谷の間に黒い靄のようなものがわき起こり声を発した。誠の腕に靄がかかったと思ったら人の手が誠の腕を掴んであり、手から腕、肩とそれはスルスルと人の姿に変わっていった。何だよこいつ!?ひ、人じゃない!?
「あれ、アメってば今まで何処にいたのさ?愚痴を聞いてもらいに来たのにいないから会長様にからまれてたんだよ?」
「・・・申し訳ない。詫びは今晩の夕食に腕を振るおう。」
「・・・いやいいよ。詫びは気持ちだけで。アメの料理ってどうも味薄すぎて味気無いから。」
新谷は現れた男に怯えもせず、というか晩飯って・・まぁ普通に話を進めている。
つーかこいつ人形か?黒い着物を着て、奇麗な顔なのに無表情すぎるのがすっげー怖えんだが。それに今新谷のことを『主』と呼んだぞ?謎過ぎる黒尽くめは誠から目を離さずにじっと見ている。
「な、な・・は、放せ!」
誠は黒尽くめに対する恐怖からか掴まれている腕を解こうとし、反対の腕を目の前の男に伸ばした。すると不思議な事にアメと呼ばれた男の腕に手がかからず先程の黒い靄のようになって腕に触れることができなかった。
誠はこれを見て顔を今までで一番顔を青ざめさせた。もちろん俺もわけのわからん現象を目の前にして固まってしまった。
素知らぬ顔をして新谷は誠を一瞥し俺に向けてしゃべりだした。
「こいつはアメって言います。私の式神・・・うーん、使い魔ってやつですね。あ、わかんないかな?えっと・・・妖怪で手下みたいなもんです。」
「・・・式神・・。」
「そう。アメ、矢野くんの腕放して。」
「・・・・・御意。」
アメとやらは誠の手を放したと思ったら俺の前に一瞬で移動してきた。俺は不覚にも驚きすぎて動けなかった。いや、それよりも顔近いわ!離れろ!
などとこころで叫んでも実行に移せる程、俺の精神状態は回復していない。くそぅ。
「・・・・?主。この者に護符を与えたのか?」
「え?してないよ?」
こいつは俺をまじまじと観察してまたも新谷とわからん会話をして後ろまで下がっていった。マジでなんだよコイツは!?怖過ぎるぞ!?
俺はここでいったん深呼吸し気を鎮めた。スー、ハーッ。よし。
「俺は何者かに呪われて命の危機に瀕している。呪いを解くのは難しい。小手先での回避ならば延命可能。しかし1年保つかどうか、ということだな?」
「・・・そうなるね。さすがだねー、要点まとめたらそんな感じ。」
「・・・・主。」
俺の意見に新谷は肯定したが黒い式神は何やら言いたいことがあるみたいだ。新谷がスルーしたことによってそれ以上しゃべらなかったが。
しかし・・・どうしたものか。昨日の呪いの化け物がまたも俺を殺しにくるってことだよな?近いうちに。
「・・・ねぇ、新谷サン。あんたじゃどうにかできないの?呪いを解くのは難しいってできないわけじゃないよね?!だったら・・!!」
「・・・えーと・・。」
「よせ。誠。先程の話からして命がけになるのだろう?おまえの話を全面的に信用した訳じゃないがそっちが俺に命をかける必要がない。」
「・・だけどさぁ。」
「・・・・・・・・・・・・・ぶはっ!!」
「「は?」」
ふははははははは!!げほっ!ぶっ、ははは!けほっ、ごふっ!はは、は!
聞いてるコッチがドン引く程、新谷が大笑いしだした。なんだこいつ。
ここに連れ込んでから今まで面倒くさそうな顔してたのにここにきて何故爆笑?
誠も唖然として新谷を見て、式神はやつの背中をさすってやってる。・・・慣れてるように見えるのは気のせいか?
「はっ・・・はー、笑った。久々に笑った。会長様ってばいい根性してるねー。かっこいいー。」
「知ってるが。」
「いやいや、昊ってば何肯定してんの。謙虚って知ってる?」
「事実だろうが。否定する要素がないな。」
「・・・・・。」
「わはははは!おもしろいねー!会長様ー!!」
先程まで張りつめていた空気が新谷の爆笑によって大分緩んだ。・・緩みすぎでもないが。こっちは命かかってんのに。
誠は怒りと恐怖を耐えきったようで俺の発言を聞いてはーーーっ、と長い溜め息をついている。「こんなやつを本気で心配したオレってあほみてーじゃん・・。」などとぶつぶつ呟いている。失礼なやつだ。そもそもオマエが阿呆なのはもとからだろうが。
笑いの波が収まったのか新谷は眼鏡を外し生気に満ちた目で俺をまっすぐ見つめ、初めて俺に笑みを向けてきた。
そしてー、
「あー、もぅどうしようアメ。私、会長様気にいちゃったよ。助けたくなってきた。」