7 予備知識
私はそのまま矢野誠なる人物に腕をひかれて化学準備室に連れて行かれた。といっても、今じゃ割れたビーカ−や段ボール箱が置いてあるだけの部屋だけど。椅子すらないなー。おっ!やっと腕を放してくれた。少し痛いが、私の広い心で許そう。
うん?何か二人とも怒ってるね。空気が淀んでます。というか、つれて来といてだんまりか。女の子の扱いがなってないねー?
しかし・・・あらためて見ると生徒会長様って美形だな。さらさらの黒髪を目につかない程度に切り揃えてあって、切れ長の目は光加減か茶色く見える。そんで・・・・ん?・・・・生徒会長ってこう生徒の見本だよね?けど今の会長様は制服のネクタイ締めてないしシャツも第一ボタンが開いている。いや、今時の高校生って感じですけどね?けど・・いつも見る会長はオレ様でもちゃんと制服を着こなしていた気がするが・・・おお?なんか会長様が凶暴に見えるのは気のせいか?
やがて凶暴な会長様が口を開いた。
「説明してもらおうか。」
「・・何を?」
「呪いについてだ。」
まあ、ソレ以外で私に用があるとは思えんが。まさかの告白!?なんてイタイ妄想する程馬鹿じゃないですよ私は。
「えーとですねー・・・・これからの人生頑張って生きてください。天寿全うは無理ですが。1年生き延びれたら奇跡ものだし。私的にはアレから三日生きてるのが凄いと思います。」
「おいおいおいおい。物騒すぎない?ちょおっと待って?」
矢野くんが話を遮ってきた。なんだよ、人の励ましの言葉を!
またもや顔を引きつかせて聞いてきた。
「気のせいじゃなきゃ昊が死んじゃうのが決まってるみたいに聞こえるんだけど?」
「そりゃそうでしょ。軽い悪戯程度の呪いならともかく会長にかかってる呪いは『死』を込めてあるものだから。このまま『死』を避けるのは無理。直接来たんでしょ?『アレ』が。」
私の言葉えお聞き、矢野くんと会長様は顔色を変えた。
やっぱり。というか、そうでもなきゃ私のとこに来ないだろうし。
そもそも会長様にとったら私ってめちゃくちゃ怪しい人物だしねー。しょうがないけどさ。
黙り込んだ二人を前に私はこちら(・・・)の世界について説明しとこうかな。
「そんじゃまず呪い云々の前に色々と知っといてもらいましょうか。予備知識として聞いてください。知っといて損は無いですし。」
とにかく説明しとこうかな。納得しないかもだけど。
「ぶっちゃけ幽霊とか妖怪・神様諸々は存在します。で、生きた人間を害す悪い人外から人に紛れて暮らす善人な人外など探せば結構いるものなのデス。OKですか?」
「・・・・・・うん。話進めて?」
「・・・・・・続きを。」
未だやや青ざめてるもののコチラの話をしっかり聞いてるみたい。うん、まだマシな反応だね。
こないだ別の人に同じ事を説明したら半狂乱になったからねー。ありゃ怖かった。
普段は大人しいOLさんらしかったけど『信じられるかぁ!!』って暴れだしたんだよねー。結局あの人は自称正義の味方の妖怪に助けられてたけど。んー、生きてるのかな〜?あのOLさん。対価に何か契約させられてたけど、まぁいっかーってほっといたんだよね。さきに私を拒否したのアッチだし。
「魔術や呪術など御伽話のような力も存在します。それらを扱う人々も。プロってやつですかね。あ、霊能力者とか魔術師っても呼ばれるかな。」
「・・オマエもそのプロってやつか。」
「あー、まぁそうですね。んでたまたま同じ学校で不穏な匂いがしたんでその後をつけたら会長に行き当たりまして。
んで、とりあえず忠告はしたからまぁいいかなーと。」
「・・何ソレ?色々と納得できないことあるんだけどー?
さっきの言い方だと昊が危ないのわかっててほっといたってことじゃない?」
お?なんか矢野くんが笑顔で黒い雰囲気作りだしたー・・ってか怖っ!?見た目と雰囲気あってないって!
けど言ってることは正解です。
「はぁ、まぁそーかなぁ。」
「・・前知識はわかった。で俺の『呪い』については?」
「ああ、えっとですねー。詳しくは分かんないけど幽霊や妖怪が憑いてる訳じゃなくて何らかの害ある術をかけられてる状態の事を言いますね。まぁ例外で『祟る』とかもあるけど。んで『呪い』ってのは『対価』がいるんですよ。物でも何でも『呪い』の内容にみあう物が。
会長様の場合、相手は会長様の強い『死』を願う程のものです。相手はそれなりの対価を払ったようだから『死』を避けるのは難しいと思います。
おそらく『アレ』に命を狙われ数日で命を落とす類いのものかな。
初見ではこんなもんですかね。」
もっと詳しく調べたら違うかもしんないけどね、っと心の中で呟いておく。調べるのにも色々障りがあんだよねー、面倒くさいんだから。
ともかく現状は説明しました。これにてお役御免をしたいんですが?
「・・・やばい。オレ色々とわかんなくなってきた。昊は?」
「・・・信じたくないが嘘じゃなさそうだ。」
おお!信じてくれました!二人ともかなり渋々といった感じだけども!
ちょっとびっくりしてマジマジと見てたら会長様に睨まれた。こわいって!!
「どうすればいい?」
「へ?何が?」
「・・どうすれば呪いを解ける?」
「さー?知りませんよ。ほとんどの人は呪われてる事自体知らずに過ごす人もいるくらいなので会長様は知れたのだからいい方じゃないですか?
ああ、一般に出回ってるオカルト物ですが眉唾から本当に効果があるのもあるんで調べてみたら?」
「!?オマエがどうにかするんじゃないのか?」
会長が軽く驚いて私を見て来た。えーといつそんな話しました?
「私は会長に呪われている事実を教えましたよ?」
「オマエは命の危険を感じたら自分の元に来いと言っただろうが!」
「ええ。自分のおかれた現状くらい知りたいでしょうから教えたまでです。わかったでしょう?」
「おいっ!!さっきからオマエなんで無関係装ってんだよ!?あんたのせいで昊がもし死んだら責任感じねーのか!?」
私の言葉を聞いて矢野くんが怒鳴って来た。凄い剣幕で。
そんな矢野くんを見て会長も私を睨んで来た。
ああ、やっぱりこうなるのか。
私は軽く失望感を胸に抱きながら重くなった口を開いた。