6 電波改め不思議
昨日から今朝までずっと不可思議なことが起こり続けている。
例えば朝食で俺の分だけ卵が腐ってたり、新聞を取りに出れば何故か郵便受けに鳥の巣が出来ていて新聞が無惨なことに。昨夜は部屋の電球が切れたので買い置きの電球がなく買いに行けばなかなか同じサイズが売ってなくて10店ハシゴしたり、クソ親父から久々にメールが来たので開けてみればウィルスを仕込まれてていてパソコンが駄目になりかけたり。
最悪だ!不気味な鬱血痕などよりもたちが悪い!!
「で、どうすんのさ。電波ちゃん探すんだろー?」
今日は例の女子生徒を探すためいつもより1時間早く登校している。途中、誠を叩き起こしてつれて来た。
俺にとっちゃ苦でもないが夜型人間である誠は眠いのかさっきからあくびをかましている。というか昨日コイツが帰った後の今朝までの出来事を話してやったら何故か急激にやる気と真剣味が激減しやがった。コチラは真剣に焦りだしたというのに!軟弱者が!!
コイツに対し色々と言いたい事があったが仕方なしに指令を下してやった。
「図書館で学生名簿をとって来い。」
「え。図書館?生徒会室でいいじゃんかー。手に入るだろー?」
確かに手に入るがそうする訳にはいかんから、言ってんだろが。
「いいからさっさと行け。」
「はー?なんでよー?・・・・・ハイハイわかりマシター。行ってきますよ〜。」
軽く睨んでやったらあっさりと陥落した。すると直ぐに気を取り直したのかコチラに真剣な顔を向けて来た。
「なー、昊。オレはさ、オマエが色々考えて判断したことに90%くらい信頼してるのよ。
ガキの頃からの付き合いだし?オマエを8割は理解してるつもりだし。
でもなー、相手にちゃんと説明・・つか納得させれないと駄目だぞ?なにもオマエの手足になるやつらみんながオマエを理解してくれる奴ばっかじゃなし。もっと言葉をかけるべきだよ。
気をつけろよー?これは親友からの忠告だかんな。」
は?何言ってやがるコイツは。
「阿呆が。俺を誰だと思ってやがる。他のやつらにはそれなりの態度で相手をしてやってるさ。オマエが特別なだけだ。」
「・・・・・・わお、いやな告白受けちゃったな。・・・悲しむべきか喜ぶべきか悩むなー・・。」
軽口たたいているが若干嬉しそうにしているのがわかった。いつもヘラヘラとしてるから表情が分かりにくいがそれなりに表情くらい読める。
というか今更言うか?ったく面倒なやつだ。
「キモイからさっさと行け。」
「はいはい。・・・あ、不思議ちゃんだ。珍しー、こんな朝から学校来てるなんて。」
学校の正門をくぐるところで誠はよくわからん事を口にし、グラウンドに目を向け軽く目を見開いていた。
俺もつられてそちらに目を向けーーーん?
「・・・・何だ、あいつは。」
なんつー分厚い瓶底眼鏡をかけているんだ。今のご時世、売ってる所を見つける方がすごいと思う。
「おおー、今日は瓶底かー。前見たときは銀のフレーム眼鏡だったのに。」
「いや、なんだ。あいつは。何故グラウンドのど真ん中に立ってる?」
「知らね。つーかあの子知らないんだ。昊ってばちゃんと仕事してんの?俺の格好もスルーしちゃうし。」
誠は言うなり着ている黄色のパーカーの裾を引っ張って聞いてきた。・・一応駄目だとは認識してたのかコイツ。なら普通に制服着とけよ。
「そこらは風紀委員の仕事だろーが。何故俺が奴らの仕事をしなくちゃいけない。死んでもごめんだ。」
「あ〜、そっか。今の生徒会と風紀委員チョー仲悪いもんね・・。いや、正しくは生徒会長様と薔薇女王か。」
「朝からアノ女の事を口にするな。耳が腐る。」
「・・・・・・。」
胸くそ悪い奴の事を思い出し不快な思いがよぎる。・・・ただでさえ忙しいのにアノ女に無駄な時間を取られないか心配になってきた。人の話を聞かん上に金で解決しようとする最悪な奴だ。何故アイツが風紀委員長をしているのか俺は入学してからずっと疑問に思っている。どーせ金か親の権力だろうが。
「あんなのはどうでもいい。それよりも何だ、あの生徒は。」
「うん?不思議ちゃんか。一部で有名なんだよ。学校に来たり来なかったりのサボり魔で毎回眼鏡が違うらしい。かけてない日もあるっぽいけど。んでたまーにあーやって不可思議な行動を取るから『不思議ちゃん』。」
「・・・・ならもう少し噂になってもよさそうだが?なんで一部なんだ?」
「おっ!流石は昊!目のつけどころがいいね!」
誠はニヤニヤしながら嬉しそうにしゃべっている。コイツは昔からこうして俺が知らん事を教えるのが好きらしい。本人曰く人間関係での情報ならば俺に勝てるからだと言っていた。・・・俺としてはなんだか悔しいがな。
「それが彼女を知ってる人らはみんな口を開かないだ。しかもなんか妙な連帯感まであるし。怪しいけど害はないからこれ以上探んなかったんだよね。」
「ふぅん。それは不思議だな。」
「うん。不思議なんだ。」
変わった生徒がいるもんだな。しかし眼鏡が毎回違うってどうなんだ。無くてもいいんならせんでいいだろうに。
俺はもう一度その生徒に視線を向けた。コチラからは横向きに見える。
背中まである黒髪を一つに縛り、制服をきちんと着こなしている。顔にかけてる瓶底眼鏡で顔はよく見えんが背筋を丸くしているせいかだらけてるように見えなくもない。
げっ。こっち見やがった・・・・あ?
「おっ。こっちに見ー・・てないね。スルーされちゃった。」
誠は軽く手を振ったらしく暢気に苦笑している。いやそれよりもあの生徒ーー
「・・・・誠。」
「なにー?あっ!わかった。例の電波ちゃんあらため不思議ちゃんだったりしたとか?」
「・・・・・多分そうだ。」
あいつだ。容姿なんぞ覚えてなかったがあの無気力な雰囲気には覚えがあるーと思う。いやアイツだと俺は何故か確信がもてた。
「・・まじ?・・・・意外と早く見つかったね。」
さてどうするべきか。今から話をつけに行ってもいいが・・、それを見た周囲が面倒な事になりそうだな。
俺はこれからどうやってあの生徒と接触するか考えた。・・・・よし。
「行って来い、誠。」
「え!?オレが!?」
「せっかく早起きしたんだ。俺の為に有意義に時間をつかえ。」
誠にいつ接触させるか考えながら俺は校舎に足を向けた。あの阿呆が後ろで狼狽えているのがよくわかる。
「・・・・・え、ちょっと!?昊?!〜〜〜この俺様がー!!人の話を聞けってさっき言ったばかりだろー!!」
何か騒いでいるが俺はもちろん聞いちゃいなかった。阿呆の相手は疲れるからな。