10 黒い式神
「話がある」
とりあえず四次元ポケットなる物からだされた護符?やらお守りで今夜は大丈夫だと説明をうけ、今までの事を話していたら放課後になっていた。午後の授業をサボってしまった。無問題だが。その後新谷は準備がある、といって家に帰る事となった。
今後のことは明日もう一度ここで集まる事にした。
帰り道、俺は誠を念のため「盾」として今日は泊めてやることにして家に引きずって行った。ありがたく思え。
「え?もうオレ頭がパンクしそうでイッパイイッパイなのにまだ働かせるの?」
「働かせるなど人聞きの悪い。オマエの慈善活動に協力してやってるだけだ。」
「・・・はぁ、蒼さんに挨拶してこよーっと。」
誠はそう言ってからリビングに向かって行った。「勝手知ったる他人の家」状態のためアイツは我が家の構造をよく知っている。家長には必ず挨拶がルールだ。母は今、パートに出かけているので家には兄と俺たちがいるだけのため現状の家長は必然的に兄となる。
俺は二階にあがり自分の部屋に入った。
・・・妙な感じがする。視線を感じるというかもう一人此処にいるような・・?今は部屋には俺しかいないのに。
新谷を信じるなら護符とかで今晩は大丈夫じゃなかったのか?
俺は少々落ち着き無くベッドに腰を下ろし、部屋を見回した。俺の部屋はあまり物を置いていない。勉強机にベッドにタンス、壁一面に本棚があって他の物は基本クローゼットに閉まってある。全て青と黒を基調とした色合いだ。ここらは母の趣味だが。
ともかくこの部屋には今は俺以外いないはず・・・だよな?
俺は何となく自分の作った雰囲気を壊したくなって無意識に口に出していた。
「・・・誰かいるわけないか。俺とした事がやはり少し疲れているな。」
「いるがなにか用か。水沢昊哉。」
「!?」
声のする方を見るとただ勉強机があるだけだった。・・・いや、今の声って先程も聞いた確かーー
「・・・・・アメ・・・?」
「何だ。」
「!!」
やはり勉強机の方・・いやそれより上で声が聞こえてくる。コレってたしか隠行ってやつか?俺には見えなくともアノ野郎からは俺が見えるってことだよな?
・・・何かむかつくんだが?
「アメ・・だったか?姿を見せろ。不愉快極まりないぞ。しゃべる時は相手の目を見て話すものだ。これではできんじゃないか。」
「・・・」
おっ。大人しくでてきた。一瞬の間で俺の机の上に腰掛けている全身黒尽くめの少年か青年とも呼べるぐらいの男がでてきた。・・誠がコイツ見たら悲鳴あげそうだな。つーか人様の机に座ってんじゃねぇよ。
「何故わかった?」
「は?なんのことだ?」
主語を入れんか、主語を。
「・・何故我がここにいるとわかった?」
「ん?・・・何となく、か?やはりまだ安心できんから周囲を警戒してるようだ。自分でもよくわかんねーな」
これは本当だ。階段から落とされた時のように何かがまた周囲にいるのではないかと警戒してしまう。新谷の話では目に見えないような存在相手にどうもできないが底知れぬ恐怖は変わらない。
・・・・待てよ。
「なんで俺の部屋にいるんだ、オマエ。不法侵入で訴えるぞ、コラ」
「・・・主より命を受けたまで。一通りこの家を調べ報告した際、今夜は貴様の護衛を承った。故に在る。」
「護衛?新谷からか・・。」
「是。・・・・護符のみでも良いが呪の元を見定める意味もある。」
「・・・・・・まぁ、いいか。晩飯食ってくのか?誠の分ともう一つ布団を用意しないとな。」
「・・・・・・・・。」
とにかく今晩はコイツも保険でいるってことか。ではどうするかと考え、飯と寝床がいると判断した。こいつ自身からは怖いと感じるが危険だとはどうも思えなかったし。
「・・我に人の食事や睡眠は必要ない。」
「ふぅん、そうゆうものか。人にしか見えんから違和感があるな。」
「人に模しているからだ。本来の姿とは異なる物だ」
「・・・他の妖もオマエのように人に模してるものなのか?」
本来の姿ってのも気になるが新谷の適当な説明では他にも色々と気になることがありすぎる。知る必要があるかわからんが俺は知的好奇心を満たすためアメを質問攻めにしてみることにした。
こいつ表情動かねぇし抑揚のない喋り方するから人形相手にしてる気分だが質問全てに答えてくれた。・・・見かけによらず良い奴っぽくないか?学校で会った時はガン見されて苛ついたが水に流してやるか。
色々と教わっていると段々気分が落ち着いてきた。
それに俺は普段の日常生活の中で知らなかった面を一部分知ったに過ぎないと言う事がわかってきた。
今は思いっきり関係あるが今まですぐ側に暗くて不思議に満ちているものがあったなんて知らなかったし疑問に思わなかった。
命が狙われているというふざけた状況ではあるが目の前の男や新谷空にとったら当たり前の世界だったのか、とまた納得もした。
「うげっ!?な、なんでいるのソイツ!?」
誠が戻って来た。というかノックの一つでもしろよ、礼儀知らずめ。
「俺の護衛だと。新谷が寄越してきたらしいな。」
「・・・矢野誠。」
「ぅえ!?な、な、なんだよ!?」
アメは誠に呼びかけると机から下りた。そして音も無く誠の前まで行くとやはり無表情に告げた。
「主は貴様の無礼をお許しになった。だが我は主を守るもの。害するものの存在を許すわけにはいかないが・・主の言を無為にはできん。我は貴様を滅しはしない。・・貴様の行いによって今後はわからないが。」
・・・滅すってあれか、殺すってことか?こいつサラッと言いやがったぞ。誠はぽかんと口を開けて意味を理解したのか一気に顔を青ざめさせて後ろに一歩後退した。ずごく気持ちがわかるぞ。消えたり触れなかったりする化けもん相手にんな事言われて生きた心地しねぇしな。思い切り脅しにしか見えんしな。
やつは後ろに下がった誠をじっと見ているがそれ以上何かを言うつもりは無いらしく踵を返すと次は机ではなく椅子を引いて座り直した。・・なんで俺を見る?
「・・・水沢昊哉。」
「な、なんだ」
俺はらしくもなく先程のこいつの殺人宣言、いや今は殺さないから殺人予告?を聞いてびびってしまった。今まで普通に受け答えしてた奴がんな物騒なこと言い出したら普通に怖いわ!
「我は貴様がどうなろうと構わない。しかし主は貴様を生かすと宣言なさった・・・・。」
「そ、そうだな。新谷には感謝している。色々としてくれているからな」
アメは俺の返答にどう思ったのか眉間にシワをよせ俺を睨んで来た。は、初めて表情を変えたのがコレってマジ恐いんだが!?
アメの周りだけ空気が固まってしまったかのように重い雰囲気がたれ込んでいる。
俺は情けないことに恐怖にかたまってしまった。
誠は青ざめて顔を恐怖に染めて壁にもたれてズルズルとしゃがみ込んでいるのが見える。
アメはそのまま俺の顔を見て急に無表情に戻ると椅子から立ち上がり窓を開けた。
俺はベッドに腰掛けたまま呆然とアメを見た。
「話がある。・・・二刻程したらもう一度ここに。周囲を見て来る。」
黒い装束を纏った男はそう言うと赤く染まった夕日の光に溶けるかのように消えていった。