第八話 脅し効かずば、我が身に返る
新大陸へ向かった船の乗組員が見つかったと知らせが届いたのは、それから丁度2日の事だった。
面会の場として選ばれたのは、隣国の王女が立ち入るとは思えないような薄暗い倉庫のような場所だった。
淑やかな少女と、見るからに粗暴な黒く焼けた肌の男が小さなテーブルを挟み、向かい合って座っていた。
ソフィアの後ろには護衛のアーノンとルカが立っているが、男の後ろにもまた、屈強な男が4人立っていた。
先に口を開いたのは、男の方だった。
「新大陸に行きたいって奴がいると聞いて来てみたが……
お嬢ちゃん、新大陸に行くのを遊覧だと思っちゃいないか。」
心底不機嫌そうな様子の男に対し、ソフィアは穏やかな声色で返す。
「いいえ、新大陸への航路は筆舌に尽くしがたい困難が待っていると心得ております。
……それでも、行かねばなりません。」
ソフィアは沈痛な面持ちで語る。
男はふん、と侮ったように鼻をならした。
「船員のほとんどは気性の激しい野郎ばかりだ。お前みたいな細っこい娘が生娘のままでいられるとは思えんがね。」
男はたくわえた髭を撫ぜながらニタニタと笑う。彼の後方では仲間たちが、下卑た薄ら笑いを浮かべていた。
ソフィーは目を細める。
「なるほど、確かに力ではかなわないでしょう。
ですが、もし仮に同意もなく私の股座を血に染めるような輩がおりましたら……
―――その者の喉笛を、等しく血で染めて差し上げます。」
船長は胃の奥に冷たいものが落ちるように感じた。
荒波に立ち向かい、賊と渡り合い、幾度となく命の危機に瀕してきた自分が、年端もいかぬ少女に気圧されている。
彼女は、この年端もいかぬ少女は、それだけの覚悟で大海へ乗り出そうとしているのだ。
「強がりを…」
「勘違いなさらないで下さい。これは強がりでも脅しでもなく『決意』です。
他の船員の皆々様にもくれぐれもお申し付けくださいまし。」
ソフィーは今日一番の屈託のない笑顔を見せた。




