第七話 新大陸への足がかり
数年前、酔狂な冒険家によって大陸の東に新たな未開の土地があることが確認された。
発見直後は各国は熱狂に包まれたが、その熱はすぐに冷え切ることになる。
―――海からの風は大陸に向かって吹く。
トニトル王国で船に乗る者なら、誰しもが知る事実だ。
風上に向かって船を進めるには特殊な帆を持つ船と、熟練した航海技術の両方が必要となる。
つまり、命をかけてまで東に船を進めるのは、よっぽどな無知者か変人だけなのだ。
トニトル王は椅子から体を乗り出しソフィアに問いかける。
「とんだ食わせ物かと思うたが、その実、蒙昧であったか?東へ漕ぎ出す者のいかに愚かな事か。」
表面上は、ソフィアを小ばかにしているが、トニトル王の声色に期待が含まれていることは明らかだった。
「新大陸への航路が如何に困難かは承知しております。ですが、不可能ではありません。なにせ、行ってきた者がいるのですから。」
「その冒険者なら、3度目の航海から戻らなかったと聞いているが?」
トニトル王がにやりと笑う、ソフィアの顔もそれに呼応する。
「ええ、ですが、海を渡ったのは彼だけではありません。この国にはまだ、戻ってきた船員がいるはずです。」
「お前のような乳母日傘が過酷な航海に耐えられるかな?」
「では海上で、めいっぱい日を浴びることに致しますわ。」
トニトル王は、豪快に笑う。ソフィアはあくまで嫋やかに、笑った。
「杞憂だとは思うが、目途立たずと我が国に居座られても困る。ひと月の猶予ののち直ちに出国せよ。できなければフィエル王国に送り返させてもらう。」
「仰せの通りに致します。では、これにて。」
深くひざを折り、謁見室を去ろうと踵を返すソフィアにトニトル王は声をかけた。
「せめてもの手向けだ。くだんの船員探しはしてやろう。」
トニトル王に背を向けるソフィアの顔が一瞬ひきつったが、笑顔を戻し振り返る。
「いえ。貴国の手を煩わせるわけには……」
「謙遜は美徳だが、過ぎると好事を逃すぞ。二日待て、面会の機会をくれてやろう。」
トニトル王に向き直り、三度深くひざを折る。
「度重なるご高配、感謝の念に堪えません。」
「わずかな情報から船員を探す」という困難を奪われたソフィアの笑顔の端が、
ひくひくと震えているのに気が付いたのは、一人の侍従メイドのみだった。




