第十一話 瓶詰めの宝石
「おいおい、いったいどれだけ食料を買いこめば気が済むんだよ。」
活気のある朝市の中を、険しい顔のフレンダと、半ばあきれ顔のアーノンが並んで歩いていた。
すでにアーノンの両手には、いっぱいの野菜と果物、鮮魚などが抱えられていた。
「食料品は、船員たちが前金を使って用意してくれるんだろ?わざわざ俺たちが追加で用意しなくても……」
言いかけるが、フレンダに表情で凄まれ、アーノンは言葉を飲み込みため息をつく。
フレンダはこぶしを強く握り、唇をかんだ。
「いくら食料に乏しい船旅とはいえ、ソフィア様に二度とあのようなものを食べさせるわけにはいきません。
船上でのソフィア様の食事は、私が全て取り仕切り、厳しい環境でも最大限のものを提供するのです。」
アーノンは再びため息をつく。
「わかったわかった。買い出しぐらい文句言わずに手伝ってやる。だから、手は大事に扱え。その手はもう、料理をするための手なんだろう?」
フレンダの手のひらは、自らの爪が食い込み血がにじんでいた。
フレンダはあわてて手の力を緩めると、自戒するように俯いた。
いたたまれなくなったアーノンが会話を振る。
「しかし、いくら野菜や果物を買い込んだところで、10日もすりゃあ痛んでくるし、虫だって湧くだろ?」
「はい……ですからその、これは……」
冷静さを取り戻したフレンダは、だんだんと物おじし始める。
美食を汚す行いには狂気的に対応するが、そうでなければ途端に意気消沈してしまう。
「何か考えがあるんだろ?手伝えることは手伝ってやる。俺だって、もう虫食いのレンガなんて食いたくねぇからな。」
からからと笑うアーノンを見て、フレンダも顔をほころばせた。
「そうですね。この野菜と果物は塩漬けか…酢漬けにして瓶に入れ封蝋しようと思っています。」
アーノンはいぶかしげに問う
「瓶?樽のほうが軽くて安いし良いんじゃねぇか?」
「いえ、樽はだめです。食糧庫でも、同じ食料は樽詰めのほうが先に悪くなっていました。それに、ねずみは木をかじりますが、瓶はかじりません。」
アーノンは顎をなでながら、納得したようにうなずいた。
「特に、このお野菜は塩漬けしておくと、独特の酸味が出てとてもおいしくなるんですよ。こっちの果実はとてもすっぱいですが、砂糖や塩につけて保管すれば長持ちするはずです。」
調子づいてきたフレンダは、追加で次々と野菜と果物を購入していく。
重さが増し、だんだんと手がしびれてくるのを感じ名がら、アーノンは航海中の美食に思いをはせていた。
この後、フレンダは出航ぎりぎりまで瓶詰の作業を続けることとなる。瓶の確保とコルクを使った封蝋には苦労したが、1週間もすれば見事な瓶詰が作れるようになっていた。
ソフィアが試作された果物の瓶詰を目にしたとき、うっかりと
「まるで瓶詰めの宝石のようね、美しいわ。」
などとほめてしまったがため、フレンダはさらに調子づき、ソフィアに必要な瓶詰の量をはるかに凌駕する数を作ってしまい、
予算を圧迫し、クロードが頭を抱えることになる。




