四ノ巻 業務の依頼
「今日はセーラー服じゃないんですね?」
弓子はつい、雪子に言ってしまった。
「アレはあくまでも、私にとっては戦闘服だからね。くつろぐ時は、だいたいこんな感じよ。」
そう言って雪子は、白いバスローブを着たまま、その場でクルリと回って見せた。
「まあ、大好きな舘ひろしのマネなんだけどね。」
「ああ、❝あぶない刑事❞の…。」
「そう、❝クールス❞の。」
それにしても、不思議なフロアである。
エレベーターから見て、時計回りに応接ブース、バー、調理スペース、ベッドルーム、シャワー室、洗濯乾燥スペース、…それからアレは何かしら?
「ああ、アレ?」
弓子の視線の先に気がついた雪子が言った。
「アレがこの施設の言わば心臓部。実験スペースよ。」
ステンレス製の基盤の上に、よく分からない機器の、モニターやら操作盤やらが並んでいる。
その向こうには、戦闘機の座席と歯医者の治療台を合わせたような、不思議な形のイスのような物があった。
「あの座席から、別次元の時間軸に精神体を飛ばしているのよ。」
「でも実は、この昭和の時間軸のこの場所に、コレを作ったのは、つい最近のことなんだけどね。」
「さっき私、あなたと何気なく握手したわよね?」
「…はい。」
「それはとても画期的なことなのよ。」
「…?」
「むしろ、革命的と言ってもいいわ。」
「それってどういう…。」
「よく思い出して。私はこの時空の人間ではないのよ。」
「今までは精神体だけを、別時空に飛ばすことに、苦労していたの。」
「つまり物理的なボディを、飛ばすことはできなかったのよ。」
「えっ、ああ!」
「なぜ、急にできるようになったのか。」
「コレはあくまでも私の推測なんだけど、以前、初めてこの昭和の時間軸に来た時に、うっかり雪村に物理的な接触をしてしまったの。」
「どうもその時に、雪村の物理的な一部を、私の内部に取り込んでしまったらしいのよ。」
「そしてそれを核にして、周辺のわずかな元素を集めて「真田雪子」の実体化に成功してしまったらしいのよねえ。」
「そんなこと…可能なんですか?」
「まあ、でも、できちゃったものは、もう、ねえ?」
「それよりちょっと心配なのは、雪村への影響の方。彼の身に、良からぬ変化が無いことを願うばかりだわ。」
「でも、そのおかげでこの昭和の時間軸で、物理的な活動が可能になったんですね?」
「そう。だからここにも、❝照和の時空❞と同じ規格の研究所を、建てることができたという訳なの。」
「で、ここからが本題なんだけど…まあ座って。」
雪子は弓子にソファーをすすめた。
「あなたにはここで、主に事務的な仕事をしてもらいたいんだけど…いいかしら?」
「ええ、それはもちろんかまわないです。」
「でも実は、あなたにしかできない仕事がもう一つあって…。」
「何でしょう?」
「ここでどんどん職員を増やす時に、採用の面接官を頼みたいのよ。」