三ノ巻 合流する能力者
それから三日後。
あれこれ考えた末に結局、弓子は雪子に指定された住所にやって来た。
森林公園を背後に控えたその場所は、幹線道路から少し奥まっており、適度に静かで落ち着けるところだった。
それがまず、弓子の心の琴線に触れた。
弓子は何より静寂を好むのである。
何故なら人混みでは、次から次へと他人の心の声が聞こえてくるからである。
弓子のチカラは、基本的には半径20m以内の人物の悪意を感じ取るもの。
その中でも「殺意」はビンビン感じられる。
この世には、弓子の想像以上に、心の奥底で、他人への殺意を燃やしている者が多いのである。
それどころか最近では、悪意でも何でもない、他愛もない他人の空想まで耳に届くようになってしまっていた。
そんなわけで、弓子は成長するに従い、すっかり精神が疲弊し、社会生活もままならなくなっていったのだった。
そんなある日、雪子に再会した。
彼女から自衛用のチカラの使い方を学び、彼女に自分の読心能力を教えた結果、その制御法のアドバイスをもらえた。
それからは人間社会の中で、そこそこ過ごしやすくなったのだが、今でもふと油断すると、他人の要らぬ心の囁きが聞こえてしまうのである。
例え肉親と一緒でも落ち着かない。
いや、肉親だからこそ、聞きたくない心の声もあるのである。
そんな訳で、彼女は今、ここにいる。
弓子はポケットから例の小型デバイスを出すと、雪子から指定された暗号を入力してスイッチを押す。
すると目の前の、堅牢そうな壁に囲まれた鉄格子の門扉が、自動的にゆっくりと、真ん中から内側に開かれていった。
「どうぞいらっしゃい。」
木々に囲まれたアプローチにのどこかに、カメラやスピーカーが仕掛けられているのだろう。そんな声が聞こえた。
弓子がおずおずと中に入ると、背後で門扉がまた自動で閉じられ、カチリと錠の降りる音がした。
そのまま進むと、木々の間から3階建ての双子ビルが見えてきた。
どうやら、何かの研究所のようだ。
「確か向かって右のビルって言ってたわね。」
弓子は右に歩みを進める。
するとまた、右のビルの入り口のガラスドアが、自動でスライドした。
弓子が中に入ると、正面にエレベーターが3基あった。
目の前で、一番右のエレベーターのドアがまたスライドする。
「乗ってちょうだい。」
言われるままにエレベーターに乗ると、ドアが閉まり、下降が始まった。
やがてそれは地下2階で止まり、ドアが開いた。
弓子がエレベーターを降りると、そこはとても広いワンルームの空間だった。間接照明だろうか?淡い電球色が心地よい。
「こっちへいらっしゃい。」
声がする方を見ると、左手奥にブルーのソファーセットがあり、雪子がくつろいでいた。
弓子が近づくと、雪子が立ち上がり二人は握手をした。
「ようこそ。我が時空研究所へ。」
ニッコリ笑って雪子がそう言った。