第3話 スキルについて
村の入り口から一歩外に出れば、そこはもうモンスターたちの棲み処である。といっても、ここは最序盤の街周辺。強力なモンスターなどいようはずもなく……。
「ピキィィ!」
「出たな、スライム」
出現するのは最弱モンスターであるスライムとのみである。
「ピギピギィ!」
こちらに飛び掛かってくる攻撃を身を捻って避ける。一回、二回、三回。もう何百匹と狩ってきて慣れ親しんだその攻撃パターン。三回目の攻撃後に大きな隙ができることを俺は既に知っている。
三回目の飛び掛かりの直後。俺は背負っていた鉄の剣を引き抜いて振り被った。
ズバァァァ!
「ギィィィィ?!」
上段から振り下ろした鉄の剣がスライムの体を右と左に別つ。表示されたダメージは14。一撃だった。地面に落ちたスライムは断末魔と共に体が消滅していく。いくつかのドロップアイテムを残して。
「おっ、これは……?」
スライムのドロップアイテムに見慣れないものが一つあった。そのアイテムの説明を読むと。
[スライムコア]:スライムの核にあたる部分。大抵のスライムは核が傷つくと消滅してしまうため、これをドロップすることは非常に稀である。
そんなことが書いてあった。要するにレアドロップ品である。先の攻撃で真っ二つになったはずのスライムの核がどうして無事なのか、考えてはいけない。
「レア度は1か。……これなら使えるな」
途中でスライムに襲われては元も子もない。俺はモンスターが来ない安全地帯と呼ばれる場所に移動して、自分のスキル画面を開いた。
「スキル」とは。
TAOの特徴の一つとしてスキルシステムというものがある。スキルとはいわゆる技のことであり、通常の行動では行なうことができないような現象を起こすことのできるものである。
基本的に一人一つの取得に限られており、その種類は正に千差万別。有識者によると確認されているだけで数万種類のスキルがあり、他人と被ることの方が珍しいくらいだそうだ。
最初のキャラメイクが終わったあとにスキル取得の画面が表示されるのだが、選択できるのは戦闘用かそれ以外かだけ。TAOに戦いを求めるプレイヤーは戦闘用を。戦闘に重きを置いていないプレイヤーはそれ以外を選ぶ。そして、もたらされるスキルは完全にランダムである。
戦闘用スキルを例に挙げると。なんとかスラッシュのような強力な攻撃スキルを得られるプレイヤーもいれば、通常攻撃よりも弱い攻撃スキルなんてものを取得してしまったプレイヤーもいる。
ただ、基本的にスキルはお遊び要素に近い。通常攻撃は「通常」とは名がついているものの、いわゆるプレイヤースキル次第で強力な攻撃を繰り出すことができる。スキルに頼らなくてもレベルとステータスを上げ、装備を充実させていくことで十分にモンスターと戦うことが可能なのだ。
あくまでもゲームを楽しむスパイスになる。そんなコンセプトのシステムなのである。
さて俺のスキルだが「アイテムコピー」という。
名前を見ればわかる通り戦闘用ではない。ただ、アイテムを一つ選んでコピーし、同じものをもう一つ手に入れられるというスキルだ。
一見、便利そうに見える。それどころかチートスキルの域だと。俺も取得した当初はそう思っていた。
ところがどっこい。ゲームバランスを乱さないための対策はバッチリ施されていたのだ。今からやってみせようか。
「アイテムコピー」のスキルを発動させると専用のウインドウが開いた。目の前に四角い枠が表示される。そこに、さっき手に入れたドロップアイテム「スライムコア」をセットした。
まず、ここが一つ目の対策だ。レア度が1のアイテムしかコピーできない。
スライムコアは最弱モンスターのドロップ品ゆえか。レアドロップの割にレア度が一だったのでコピーすることができる。しかし、売値が高いアイテムというのは軒並みレア度が二以上なのでコピー不可能なのだ。
スライムコアをセットした四角い枠の下に選択肢が表示される。俺はコピーするというボタンを押した。「本当にコピーしますか?」という念押しの確認ダイアログが表示されたので「はい」を押す。
五秒ほど待って進捗ゲージが満タンになると。キラキラな効果音と共にスライムコアのアイコンが二つに分裂した。コピー完了というわけだ。アイテムの素材一覧を開くと、確かにスライムコアの数が一つ増えていた。
続けてアイテムを四角い枠にセットしようとした。しかしアイテムが弾かれてセットができない。
これが二つ目の対策だ。スキルにはクールタイムというものが存在している。
強力なスキルであればあるほどクールタイムは長くなる傾向にある。戦闘用スキルを例に挙げると、敵を一撃で倒せるようなスキルならば、一回使ってしまうと同じ戦闘で二回目が使えないようなクールタイムが発生してしまうものもあった。
そして、俺の「アイテムコピー」スキルは現在見つかっているスキルの中で最長とも言えるクールタイムが設定されている。なんと一時間。再度発動させるためには一時間も待つ必要があるのである。レア度一のアイテムとはいえ無限に増やせるかと思いきや、しっかりと対策がされているのだ。
とはいえ。さっき言ったとおり、別にスキルが使えなくても十分このゲームは楽しめるようにできている。それに最低レア度の中でも一番高い売値が付きそうなスライムコアを手に入れられたのは大きい。それなりに需要がある素材だったはずなので、一時間に一個増やせるだけでも金策としては十分役に立つ。
「よし、この調子で狩り続けるか!」
俺は安地(安全地帯)から狩場に戻ると、その後もひたすらスライムを斬り続けるのであった。
MMOの思い出
安地は絶対ではない。
自キャラの位置調整をミスれば、攻撃が飛んでくることもある。
相手の攻撃が届かないと思って攻撃重視な装備をしていると……。
「えっ? うそっ? ア”ッ(断末魔)」
大抵一撃死である。