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第2話 自由な世界

 俺がこのゲームを始めてから、今日で数週間経とうとしていた。


「よいしょっ、と」


 いつものようにログイン地点である宿屋のベッドから立ち上がる。


 TAOの舞台は剣と魔法とモンスターがいる世界。いわゆる古き良き(オーソドックスな)RPGの形を取っている。時代でいえば中世風か。ただしそれはこの街に限った話らしく、他の場所では異なる時代の世界が広がっているらしい。


 現在自分の拠点となっている宿屋の部屋も無機質なコンクリートなどではなく木造だった。まるで温泉旅館にいるような。檜のような香りが心を落ち着かせてくれる。


 部屋の片隅にある鏡の前に立つと、そこには現実の自分と同じ顔、同じ体形の男が映っていた。中肉、やや背高。これが自分のTAOにおけるアバターだ。現実とそっくりそのままその通り。文字通り自分の分身である。


 キャラメイクという言葉通り。本来、TAOで動かす自分のアバターは自由に容姿が設定できる。顔、体形、声はそれぞれ数千パターンの中から選ぶことができるので、理想の自分を作ることができるのだ。性別だって自由に選ぶことができる。




 せっかく自由度が高いというのに、なぜ俺のキャラは現実同様のアバターにしているのか。それはひとえに没入感のためである。 


 宿屋の部屋や装備屋などに行けば鏡があるし、水場があるフィールドに行けば水面がある。自分の姿を見る機会がそれなりに多いこの世界で、そこに映った自分の姿を見る時。俺は現実の自分と違う顔が映ってしまうと、どうしても違和感を覚えてしまうのだ。


 今までプレイしてきたVRゲームでもそうだった。自分の好みのアバター(その時は女性キャラだった)を作成して、いざゲームの中に降り立った。しばらくは普通に遊んでいたのだが、ある時、不意に鏡を見てしまったことがあった。


 VRゲームをやったことがある人ならわかると思うが、基本的に自分視点というか一人称視点のゲームであるため自分の姿を確認することができない。そのため、そこら中に確認用、もしくはスクリーンショット用の鏡が置かれていることが多いのだ。


 その鏡に映った自分を見た時。色々とアレやコレが大きくて、最高に自分好みのアバターだったはずなのに。


「あ、これは自分じゃない」


 そう思ってしまったのだ。


 その瞬間。VRゲームにおいてもっとも重要な没入感が消失してしまった。自分自身がその世界に降り立たなければダメだったのだ。少なくとも俺にとっては。


 それ以来、VRコンテンツをする際は自分とそっくりなアバターを作ることにしている。幸いなことにTAOのキャラメイク画面にはスキャンモードというものがあった。なんでも脳をスキャンすることでヘルメット型デバイスを被っている人間の特徴をアバターに反映できる機能ということだ。


 俺は迷わずそれを選択した。その結果、現実と寸分違わない自分をTAOに降臨させることに成功したのである。


 もちろん、キャラメイクは自由なものであると思っている。顔や体形など現実の自分に何かしらのコンプレックスがあるならば、それから解放された方が心を楽にゲームをプレイできるだろうし。LGBTというものが叫ばれているこの時代。本来の性別ではないアバターでプレイしたいと思う人間も多数いると思う。


 現実では男性だけどゲームでは女性キャラ(逆もまた然り)を使う人はネカマと呼ばれていたが、それはもはや過去の産物なのかもしれない。性別に囚われることなくことなく自由になっていいというのが世間の風潮であり世界の本流になりつつあるのだ。TAOもそれに倣っている。




 さて、もう一度鏡に映った自分を見ていこう。現実と同じ顔、体型のキャラクターどおりではあるが異なっていることが一つある。それは服装だ。


 服装というより装備かな。正規のログアウト・ログイン地点である自分のベッド。そこから起き上がると自動的に寝る時の服から普段の装備へと変更される仕様になっているのだ。


 黒みがかった銀色の金属。頭、上半身、下半身、靴と同じ鉄シリーズで揃えているのが現在の俺の装備だ。レベル8になって装備できるようになった鉄シリーズは防御力が高く、そこらにいるモンスターの攻撃など寄せ付けないので重宝している。


 レベル10の大台まであと少し。それじゃあ今日もレベル上げに勤しむとしますか。




 宿屋から外に出ると、そこは街のメインストリートが広がっている。


 始まりの街「ファイゼン」。


 プレイヤーたちが最初に降り立つ場所であり、俺も冒険の拠点としている街だ。小さい街ではあるが行き交う人は多い。


 TAOはリリースされてからまだ一か月も経っていない。まだまだ新規プレイヤーが多く参入する状況であるため、初心者プレイヤーとそれと同じくらいの数のNPCたちでそれなりに賑わっているのだ。


 そんな中、一際目立つプレイヤーの集団に目が止まった。


 (あれは……チェーンソー? それに燃えている槍か?)


 彼らが背負っている武器はファイゼンでは売っていない代物だった。間違いない。初心者ではなく先行している既プレイヤーたちだ。よく見ると防具の方も煌びやかでいかにも質が高そうな形をしている。


 このゲームの名前は「The All Online」。Allとはすべて、あらゆることという意味だ。名前の通り、キャラメイクはもちろん、武器をはじめとした装備、アイテムも自由に制作が可能になる。……なるらしい。


 装備制作の要素が解禁されるのはTAOの中で最も大きい規模を誇る街にたどり着いてから。そしてその街に行くためには10以上のレベルが必要なのだ。


「俺も早く作ってみたいなぁ……」


 10レベルまではあと二つ。一つのレベル上げるのに必要な経験値が増えてきたこともあり、本腰を上げてレベリングする必要がある。


 (あっちのはドラゴンをぶっ倒せそうな超長くて分厚い大剣。宝石が核になっている植物の蔦で編まれた杖)


 本当に多種多様な武器と防具だ。しかし、その中には変わり種もあって……。


 (しょ、触手の鞭ぃ?! ……うねうねして気色悪いなぁ。……あ、あれはっ! 少し前に流行っていた童貞が殺される服じゃないか!! ……スクショ撮っとこ)


 先行プレイヤーたちの趣向を凝らした装備に目を奪われつつ。俺は街の入口へと向かっていく。


 当然、羨ましさはある。自分が思い描いた武器防具を身に付けてみたい。でも、それは遠い未来の話ではなく、もうすぐ実際に叶うことなのだ。


 これから待ち受ける「The All Online」への期待が俺の心を奮わせていた。




―――――――――――――――――


プレイヤー:リン

レベル:8

次のレベルまで:152


能力値

HP:27/27

MP:100/100

筋力:24

知力:10

耐久:18

器用:15

敏捷:16


スキル

・アイテムコピー スキルレベル:5


装備

武器:鉄の剣(攻撃力+12)

頭:鉄の帽子(防御力+5)

体上:鉄の鎧(防御力+10)

体下:鉄の鎧下(防御力+7)

足:鉄の靴(防御力+3)

アクセサリー:無し

セット効果:「鉄の塊」(防御力+11)


所持金:3269ジオル


―――――――――――――――――

充実のステータスと装備。

さらに、鉄装備を全身に揃えたことでセット効果発動! カッチカチやぞ!

スキルに関しては次話で説明しますのでお待ち下さい。


※補足


The All Onlineは本当になんでもありなMMOですが、未成年に対する悪影響に関してはキチンと対策されています。


ゲームを最初に登録する際に身分証明書の写しが必要となり、基本的に15歳未満はプレイできません。

さらに一定の年齢(18歳未満、20歳未満)で参加できるコンテンツ、表現されるコンテンツが制限されます。

フルダイブ型VRのため、ゲーム内で行うことが実際の精神と肉体にも影響を与えてしまうからです。


ゲーム内での飲酒、喫煙、ギャンブル要素のあるコンテンツへの参加は20歳を超えてから。性的なコンテンツの表示は18歳を超えてからになります。


このお話の主人公は20歳を超えていますので、触手のムチや童貞が殺される服は鮮明に表示されています。

これが18歳未満のプレイヤーの場合、触手の本数が少なくなって汁気が減ります。

童貞が殺される服は肌の見える面積が少なくなり、童貞が殺されなくなります。

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