第10話 初心者の剣+
「それで……初心者の剣は進化させられそうかな」
「ちょっと待ってくださいっす。……あっ、いけそうっすね」
その言葉を聞いた途端。歓喜に沸いた血液が体中を駆け巡った。
「まじかっ! 頼むっ!! 俺のTAO人生が君にかかってるんだ!!!」
「ひぃぃ! 重っ! なんすかそれ! TAO人生って! 重いのか軽いのかよくわからないっす!」
プレイヤー間の取引や店への売却など、色々なことが制限されている「だいじなもの」アイテムだ。できない可能性の方が高い。いや、ほぼできないんじゃないかと思っていただけに、彼女の返答は衝撃的だった。
「いいからっ! やってみてくれ! ほらっ、これ手数料! 先払いっ!」
「うわっ、多すぎっ! もうっ、十ジオルぐらいでいいっすから!」
興奮のあまり、所持金の全てを渡したところ適正料金と思われる分だけ引き抜かれて突き返された。別にもらってくれてもよかったのに。それぐらい、俺にとっては死活問題なのだ。
「どうなっても知らないっすよ? ウチも『だいじなもの』を進化させるなんて初めてっすからね!」
「大丈夫だ。…………頼む」
レベルが一に固定されてしまった俺はステータスが上がらない。モンスターも倒せない。手詰まりだ。この、やっと見つけた突破口を逃がす手はない。
「それじゃあ……」
彼女は自らのスキル「アイテム進化」を発動させる。そして俺が渡した初心者の剣十本をセットした。これだけの刀が一か所に集められていると、なんだか刀狩りみたいだな。そんなことを考えているうちに、アイテム進化スキルのモーションが始まろうとしていた。
手を大きく広げて円を描き、胸の前で上向きに両手を合わせる彼女。スキルの発動が終わりに近付き……果たしてそこには。
一本の煌めく剣が彼女の手に納まっていた。
基本的に他人が所持しているアイテムの詳細は見ることができない。ただ今回はアイテム進化「代行」だ。進化後のアイテムの所有権はもちろん自分にあるわけで、すぐに詳細なステータスを見ることができた。
「ええと……?」
進化したアイテムは「初心者の剣+」という名前だった。。初”神”者の剣みたいな名前になったらわかり辛いと思っていたところだ。+、+かぁ……うん……わかりやすくていいか……。
その装備ステータスを見てみると、驚きの能力が判明した。
「攻撃力が上がってる……!」
元々「初心者の剣」の攻撃力は1。そして「初心者の剣+」の攻撃力は2だった。なんと二倍。こんな大幅なステータス上昇は見た事がない。合成システムよりも上昇の幅が大きいんじゃなかろうか。
「凄いなアイテム進化って! 攻撃力が二倍になったぞ?」
「…………」
この感動を分かち合いたくて彼女に話しかけたが……。なぜか彼女はプルプルと体を震わせていた。まるで何かを我慢しているように。
「なぁなぁ、二倍だぞ二倍。これならスライムも倒せるかもしれない。本当に感謝してもしきれないよ。ありがとうな」
「~~~~~~~~!」
なんだろう。彼女の振動が大きくなっている気がする。そして……。
「なんっ! でやっ!! ねんっ!!!」
メコォォォ!!!
古から伝わりしツッコミである裏水平チョップが俺の胸に炸裂した。というか、めり込んだ。
「げふぅぅぅ?!」
HPがみるみる減っていく。レベル1の俺には非常に厳しい攻撃だった。後一撃でも喰らったらPKされるところだ。
「げほっ、おほぉっ…………何するんだよ!」
「そっちこそ、どこ見てるんすか! 大事なのは攻撃力じゃないでしょ! 出来上がったアイテムはウチも確認できるっすよ! 見るべきなのはもっと下っす!」
「下ぁ?」
先ほどの強烈なバックハンドブローを非難したいのは山々だったが、何やら気になることを言っていたので再び装備の詳細画面を開いてみることにした。
「下って言っても、装備ステータスの下は特に何も……」
そう。装備のステータスは攻撃力、防御力といった値が書いてあるだけ。その下というのは空欄になっているのが普通だった。
ただ、装備アイテムには極稀に特殊効果が付いている場合がある。その場合は空欄にその旨が書かれているのだ。
例えばスライムからドロップする装備なら火耐性(極小)という効果がある。数パーセントとはいえ火属性の攻撃に対する耐性が得られるものであり、公式の競売所に掛けられれば間違いなく万単位で値が付くような代物だ。
「特に何も……」
この「初心者の剣+」に付いている特殊効果は……あるわけがない。だって「初心者」装備だ。レベル1のキャラクターでも装備できるものにそんな効果があるわけがない。つまり空欄で……。
「…………は?」
しかし、空欄であるはずのそこには。
【クリティカル(極)】
派手派手しい虹色の文字で、こんなテキストが書かれていたのだった。




