後日譚2 再会 (挿絵あり)
【辺境・裂けた大地の峡谷】
裂けた谷が続く、人の踏み入りづらい地。
風が抜け、空はどこまでも高く澄んでいた。
その谷の途中。
まるで地形ごと歪ませたような、巨大な踏み跡があった。
「……これだ。間違いない。リアーネの足跡だ」
カイがしゃがみ込み、土に残るゆるやかな凹みに指を当てた。
旅の痕跡は衣にも剣にも刻まれていたが、その瞳は昔よりまっすぐに澄んでいた。
背後には、鳥足歩兵隊の4人。
皆、それぞれの道を歩んで今またここに集っていた。
「……見つけただけでも、すごいよな」
ゾルドがつぶやき、マリナが軽く笑った。
「でも、見つけたからこそ……もう一歩、行きたくなるのが私たちでしょ」
そのときだった。
――ゴウン……ッ。
大地が、ほんのわずかに鳴った。
風が変わる。
木々がざわめき、鳥が一斉に飛び立つ。
丘の向こう。
雲を背景に、なびく金色の何かが見えた。
「……!」
空が、ゆっくりと塞がれていく。
けれどそれは、恐怖ではなかった。
大気が包み込まれるような、安心の気配だった。
現れたのは、金色の髪をなびかせた巨影。
身の丈は、かつての何倍にもなっていた。
それでも、目に宿る光は昔と変わらず――優しかった。
リアーネは静かに腰を落とし、丘の麓に顔を寄せる。
「……カイ」
その名を呼ぶ声は、まるで風そのものが語りかけてくるようだった。
「……こっちの声、届いてたのか」
カイは一歩踏み出し、彼女の膝のそばまで歩いていく。
「……久しぶりだな。ずいぶん、遠くまで行ったな」
リアーネは目を細めて、わずかに頷く。
「でもずっと、どこかで感じてた。あなたたちが、前に進んでる気配を」
後ろで、マリナが笑いをこぼした。
「ねぇこれ、ちゃんと記録できる? 書いたって信じてもらえない気がする」
「そもそも報告の義務ってあったか……?」
リュカが肩をすくめ、フェイはそっと涙をぬぐった。
リアーネは、ゆっくりと手を差し出した。
その指は丘ほどの太さがあったが、動きは驚くほど繊細だった。
「……乗る?」
そう言うように、爪先がそっと地面に触れる。
カイは迷わずその上に立つ。
「ああ。行こう、“隣”まで」
風が吹いた。
温かく、やさしく、まるで昔の旅路に戻ったようだった。
巨きな手のひらの上で、彼と彼女の目線が重なる。
「……また一緒に歩けるかな」
カイが言った。
リアーネは空を見上げた。
「きっと、前よりずっと遠くまで」
その言葉に、カイはゆっくりと笑った。
空は澄んでいた。
雲が流れ、風が吹き、巨きな影がもう一度、旅を始める。
あの日と同じように。
でも今は、もう――見上げてはいない。




