後日譚1 風が届けた足音
【辺境の村・夕暮れ】
陽が傾き、麦の穂が風にそよぐ。
収穫を終えた村には、笑い声と食卓の匂いが漂っていた。
その少し先、小高い丘の上。
カイは腰掛け、空の端を眺めていた。
「……あれから、五年か」
使い込まれた剣。すっかり体に馴染んだ外套。
彼は今、Sランク冒険者となり、多くの仲間を導く立場にあった。
だが、この丘に来ると、不思議と昔のままの気持ちに戻る。
風が吹いた。
「……まだ、届くかな。俺の足音」
背後に、4つの影が並ぶ。
ゾルドは街の守備隊長として知られ、リュカとマリナは若手育成の柱。
フェイは多くの癒し手を束ねる立場にある。
だが今日は、全員が旅装を纏っていた。
「思い出したのか、お前が。あの通り道のこと」
ゾルドが肩をすくめて言う。
「忘れるわけないさ。俺たちが最初に、“でかさ”に憧れた場所なんだから」
カイは立ち上がり、ゆっくりと笑った。
「そろそろ……会いに行ってみようかなって思ってさ。答えがほしいわけじゃない。ただ、“今の俺たち”を届けたい」
「きっと風が運んでくれるよ」
フェイの声は柔らかかった。
「足音も、声も、想いも」
沈む夕日が、彼らの背中を橙色に照らす。
【道中・夜】
焚き火のそば。星が静かにまたたいている。
「この道、確かにあったんだな……ほら」
リュカが指差した先には、草に埋もれた“窪み”があった。
まるで何か、巨大なものが歩いた名残のように――
「まだ残ってたんだ」
マリナが呟く。
「何年たっても、風が全部は消せなかったんだな」
ゾルドが笑う。
カイはその窪みの中央に立ち、空を見上げた。
そこには、何もない。
けれど確かに、あの頃と同じ風が吹いていた。
「……あの姉ちゃんは、今も歩いてる気がするんだ」
彼はポツリと言った。
「もっとでっかくなって、もっと遠くまで」
そして。
「だったら、こっちも進まなきゃな。俺たちは俺たちの歩幅で」
全員が、黙って頷いた。
その夜、風は静かに吹き抜けた。
少しだけ向きが変わり、彼らの肩をそっと押していくようだった。
まるで――背中を見守る、誰かの手のひらのように。
いまも、旅は続いている。
足跡は風に消えても、歩く者の意志は残る。
そして、きっとどこかで。
誰かがその音を――静かに、聴いている。




