ep1 小さき者たちの旅路
【地方の村・掲示板の前】
風が乾いた土を巻き上げる、寒気まじりの夕暮れだった。
木造の掲示板には新たな依頼が数枚、風に揺れていた。
「……捜索依頼と獣の駆除、か。どっちも急ぎってのが厄介だな」
カイが外套の襟を立てながら言った。腰の剣には、旅の汚れと傷がしっかりと刻まれている。
「人命優先、でしょ?」
リュカが一歩前に出て言う。
「獣なら私が斬るけど、どっちもなら時間との勝負よね」
マリナが少し眉をしかめる。
「ま、カイがどっちって言っても、俺はこっちだと思ってたさ」
ゾルドが笑う。
「フェイは大丈夫?」
「うん。昨夜はぐっすり寝たし、癒しの準備も万全だよ」
鳥足歩兵隊――あの戦火を越えて生き残った五人は、再び合流しともにあった。
カイを含めた五人は、すでにCランク。
ギルドの推薦により、今は地方を巡りながら、各地の街や村を支えていた。
【翌朝・森の中】
「こっちに血の跡……!」
「追い詰めたか。マリナ、リュカ、左から回れ。フェイはゾルドと後方確認!」
「了解!」
戦いは長くはなかったが、油断もできなかった。
姿を見せたのは大型の灰毛獣。
だがそれ以上に、森の陰に倒れていた少女の姿が緊張を走らせた。
「フェイ、お願い!」
「任せて!」
矢が牽制し、盾が前に出る。
カイが獣の脚を断ち、マリナが回り込む――
一瞬の連携が、命を救った。
「もう大丈夫……動かなくていいよ」
少女に手を伸ばすフェイの声が、森を和らげた。
【村・夕方】
彼らが村へ戻ると、小さな広場に拍手が広がった。
「ありがとうございました……!」
「助かったよ、本当に!」
そのとき、村の子どもがふとつぶやいた。
「……ねえ。あのさ、“金色の巨人”って本当にいたの?」
一瞬、鳥足歩兵隊の間に風が吹いた。
リュカが微笑む。
「……誰から聞いたんだい?」
「うちのおばあちゃんが、見たって言ってた。空よりでっかくて、すっごく優しかったって……」
マリナが肩をすくめて笑う。
「いたのよ、私たちは。ずっと一緒に旅してたの。」
カイは空を見上げた。
空は澄んで、どこまでも広かった。
「……きっと、今もどこかで歩いてるさ。世界の、いちばんでっかい空の下を」
【その夜・焚き火のそば】
薪がはぜる音だけが、草原の夜を照らしていた。
ゾルドが呟く。
「……なあ。もし、また会えるとしたら」
カイが火を見つめたまま、静かに笑った。
「そのときは、俺たちのほうが小さくて困るかもな」
「いいんじゃないか? どれだけでかくなっても、大丈夫だろ」
リュカがぼそりと笑い、フェイが頷いた。
「……あの人は、遠くにいるけど、ちゃんと見てるよ。たぶん」
誰かが、もうひとつ薪をくべた。
炎が揺れ、草原の先に金色の何かが――確かにあるように、見えた。
いま、小さき者たちの旅路が続いている。
その背中に、大きな足跡と、あたたかな風を感じながら。




