73 地上への帰還
――地下空間、静寂。
崩壊の兆候が去り、粉塵の奥でひときわ大きな影が動いた。
リアーネはゆっくりと四肢を立て、背中に乗せた仲間たちを確認した。
「全員……しっかり掴まっていて」
カイは、彼女の肩に手を添えながら頷いた。
「姉ちゃん。頼む」
彼女は静かに息を吐き、天井を見据えた。
「ここから、帰るわよ」
リアーネの拳が、天井を突き破った。
ズガァァンッッ!!!
砕ける天井、降り注ぐ光――
瓦礫が舞い上がるなか、金髪の巨影が浮かび上がる。
彼女は巨大な腕で壁を掴み、地面をよじ登るようにして上昇していく。
そのたびに通路が崩れ、粉塵が舞い、土が唸りを上げる。
「……光だ!」
「見えた……! 外が……!」
ゾルドが吠え、フェイが涙をこぼし、ミレナがそっと目を細める。
リアーネの頭部が、ついに地上へと姿を現した。
【地上・神殿跡地】
「!? 上を見ろ!!」
「何かが……突き上げてる!」
地上で待機していたギルド員、騎士団、民兵たちが一斉に顔を上げた。
ひび割れた地面が盛り上がり、まるで山が隆起するように変形する――
ズドォォンッッ!!
黄金の髪が風に揺れ、土埃を押しのけて巨大な影が姿を現す。
「リアーネ……!」
「生きてる……! 皆も!」
歓声が上がる。地に膝をつき涙する者、両腕で抱き合う者、空を仰ぐ者。
「……ありがとう……」
「これで……やっと……」
リアーネは草原の端へと歩みを進め、そっと仲間たちを地面に降ろした。
カイが彼女の顔を見上げる。
「姉ちゃん……」
「言葉はいらないわ。無事でよかった」
彼女は微笑んだ。
その後、ギルド長やレナ、騎士団の幹部たちが駆け寄り、口々に言う。
「あなたが……守ってくれた……」
「これは、歴史に残る勝利です!」
「リアーネ様、街へ! 市民が……あなたに感謝を伝えたいと!」
だが、リアーネはそっと首を振った。
「私は……いいの。私には、そういう場所は落ち着かないから」
レナが一歩前に出て言った。
「でも、あなたは確かに英雄です。皆がそう言ってます」
その言葉に、ミレナがふっと笑いながら言う。
「だからこそ、彼女は“英雄”なのよ。栄光よりも、仲間の無事を優先する人なの」
カイも頷いた。
「姉ちゃんは、ずっと“隣で守る人”だった。だから……今も、俺たちは立っていられる」
リアーネは、街へ向かう群れから少し離れて、草原へと戻っていった。
ズゥン… ズゥン…
【その夜・街外れの草原】
風が穏やかに吹いていた。
リアーネは、草の上にゆっくりと腰を下ろし、仰向けに寝転がる。
空には満天の星。
街の灯りが遠くに揺れている。
「……疲れたなぁ」
彼女は腕枕のように肘を曲げ、金髪を土に預ける。
「……神殿の魔力、まだ身体に残ってる感じ。……たぶんまた大きくなるんでしょうね……」
夜露が降りる。
けれど、ここには誰もいない。誰も怖がらない。
彼女はそっと目を閉じた。
「おやすみ、カイ。……みんな」
草の海が、静かに揺れていた。




