67 地下の中枢へ
「……なんだ、今の揺れ……?」
足元から伝わる、重く響く震動。
岩盤が鈍く脈打ち、壁の土くれが風もないのにわずかに舞い上がった。
「リアーネさんだ」
リュカが天井を見上げたまま呟く。「この深さでも分かる……あの地響きは、彼女の足音だ」
「つまり、地上も既に戦場ってことか……」ゾルドが呟いた。
「それだけ“今”動かないといけない状況ってことよ」ミレナの声は鋭い。
「……時間がない。進もう」カイが短く言って前に出る。
*
突入から小一時間。
地下通路は複雑に分岐し、まるで計画された軍事施設のような整然とした構造をしていた。
床には魔力を吸収・増幅する石材が使われ、壁のあちこちには“古代式魔力中継陣”が埋め込まれている。
「自然洞窟じゃない。これは完全に“設計された空間”よ」ミレナが断言する。
「設計って……誰がこんな……」マリナが呆れ声を漏らす。
「まだ見えていない“意思”がある。召喚陣を設置し、維持している元凶が……」
その時、通路奥から複数の気配。
「前方、敵多数! 盾、構えろ!」
ゾルドの怒号と共に全員が陣形を取り、ドーガが最前列に出た。
現れたのは、全身に黒い紋様を刻んだゴブリンの魔導兵たち。目は光を宿さず、機械のように規律正しく前進してくる。
「魔力駆動式か……制御されてる。連携呪文に注意して!」ミレナが叫ぶ。
「俺が前に出る。来いよ、偽物の兵隊ども」
ドーガが大剣を肩に担ぎ、低く構えた。
次の瞬間、魔導兵たちが詠唱を揃え、数十の火矢と氷槍が飛ぶ。
「盾ごと焼き尽くすつもりか……なら!」
ドーガが前方へ駆け、剣を地に突き立てた。
「大地よ、吼えろッ!」
大剣を媒介にした衝撃波が地面を走り、前衛の魔導兵を数体吹き飛ばす。火矢は軌道を逸れ、氷槍はその衝撃で空中分解した。
「突撃! 戦線、崩すぞ!」カイが指示を飛ばす。
「ヒール班、後方固定! 魔力感知符、全開で!」
ミレナの声に合わせて支援部隊が布陣。
だが、敵の後衛が詠唱を開始する。呪紋が浮かび、紫色の光が連鎖する。
「くる……! 規模が違う……っ!」
ミレナが魔導書を開き、腕を突き出す。
「転写式、詠唱展開――反射魔法、構築!」
彼女の周囲に淡い銀の魔法陣が三重に展開され、飛来する闇弾をすべて受け止めて弾いた。
「これ以上は、突破力で押し切るわよ!」
ミレナの声が響いた直後、カイが叫ぶ。
「この先に“核”があるはずだ! 道を開け!」
「雷光閃破――!」
ミレナが魔力を凝縮させて放った雷撃が、敵陣を縦に貫いた。
その一閃が空間を焦がし、魔導兵の詠唱陣をまとめて吹き飛ばす。
「今だ、全隊、突入!」
仲間たちが一斉に走り抜ける。その先、石で組まれた円形の広間があった。
天井は高く、中央には巨大な魔法陣。
その中心にあったのは――
「……魔力供給核……!」
ミレナが息を呑む。
直径数メートルの結晶体が、地脈から吸い上げた魔力を脈動させながら放出していた。
「これは……召喚術の中枢。地上の神殿と同期してる!」
直後、天井がわずかに鳴る。
ズゥゥゥン……ッ!!
リアーネの戦闘の余波だ。彼女がこの空間ごと包んで支えているような、そんな錯覚を覚えるほどの振動。
「頼れる背中があるなら……俺たちの刃は、前に伸びるだけだ!」
カイが剣を掲げる。
「行くぞ! “根”を、断て!!」




