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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
幕間 小休止
68/95

59 強き背のひと休み


夕陽が沈みかける頃。

リアーネはカイを掌から降ろし、草原に静かに腰を下ろした。草の海がざわめき、金髪が風に揺れる。


「……街に戻るんでしょ? あなたの方が、人と話すの、向いてるから」


「でも、君がいないと――」


「呼べばいいわ。通信機、持ってるでしょう? 私の方も、聞いてるから。必要なら、すぐ行く」


リアーネは視線をそらさずに告げた。その声音には、強さと信頼の両方が滲んでいた。


「……じゃあ、任せるよ。休んでて」


カイが小さくうなずくと、リアーネは目を細めた。

そして静かに、草原に体を横たえる。


巨体が地を押し沈め、風が巻き起こる。金色の髪が草の波に流れ込む。


「復興、手伝いたいけど……この姿で街に入れば、余計に混乱を招くわね」

「建物も壊すかもしれない。……いや、きっと壊す」


小さく息を吐いて目を閉じる。


「でもね、逃げるつもりはない。私は、私。守護者と呼ばれようが、怪物と囁かれようが……また来るわ。同じように、立ち上がってみせる」


草原の緑の中に、二十二メートルの巨体が沈む。

その瞼の奥には、まだ消えない決意の光があった。



中央広場では、焼けた木材と崩れた石材が積み上がり、人々が懸命に動いていた。


「無理よ、これ……リアーネさんがいれば、一瞬なのに」

「でも、呼べば街の人は怖がるかも」

「……それでも言うさ。もう一度、“力を貸してくれ”って」


ゾルドが唇を結び、通信機を手に取る。


ギルドでは、レナとミレナが小さな地図を囲みながら話していた。


「……やっぱり、頼るしかないわ」

「怖がってる人もいる。でも、リアーネさんに助けられた人も、いるのよ」


フェイも静かに頷いた。


「リアーネさんが来てくれるって、信じてる声……ちゃんと届いてるはず」



草原で仮眠を取っていたリアーネの耳元で、通信機が震えた。


『……こちらゾルド、聞こえるか? 街の復旧作業で人手が……いや、“あなたの手”が必要だ。頼めるか?』


リアーネは目を開き、しばらく空を見上げていた。


「……聞こえてる。了解、すぐ向かうわ」


巨体が地を離れる。

立ち上がるだけで草原が震え、鳥が一斉に飛び立つ。


「怖がられてるなら、もっと怖くて、もっと役に立つ怪物になるだけ――」


彼女は歩き出す。その歩みが、再び地を鳴らす。



遠くから迫る黒い影。

以前より遥かに大きなその姿に、街の人々はざわついた。


「こ、怖い……」

「門より高い……」

「まさか、リアーネさん……?」


誰もが“初めて”彼女の成長に気づいた。

その圧倒的な巨体は、もはや街の構造を拒絶していた。


だが、リアーネは街に入らず、外からそっと手を伸ばす。

静かに、的確に、瓦礫を取り除き始める。


ある倒壊した家屋では、地中の空洞が感じ取られた。


彼女は地を傷つけぬよう、慎重に石材を摘まみ上げていく。


「誰か……いるぞ!」


叫び声と共に、人々が駆け寄った。

そして――


リアーネの指の下から、埃まみれの母子が救い出された。


娘は泥まみれの顔を上げ、空に向かって叫ぶ。


「ありがとう……おっきいお姉ちゃん……!」


その声に、周囲が息を呑んだ。


その瞬間、リアーネがほんのわずかに足をずらす。


ズシィン――!


地がうなり、広場全体が震える。


近くにいた若い職人が、ふと振り返る。

すぐ横にあったのは、まるで城壁のような巨大なブーツの裏だった。


「ひっ……!」


腰を抜かしかけて尻もちをつく。

恐怖はまだ、完全には消えていなかった。


だが、リアーネはその場で足を止めなかった。

助けるために必要な動きであることを、誰よりも理解していた。


無言のまま、彼女は最後の瓦礫を除けて、背を向ける。


そして――再び草原へと戻っていく。


「私の助けが必要なら、また呼べばいい」

「私はここにいる。“誰より大きく、誰より頼れる存在”として」


背を見送る人々の中から、誰かがぽつりとつぶやいた。


「……あの人がいて、よかった」


夕暮れの中、リアーネの影は遠ざかる。

その背に、ほんの少しだけ、“安心”という名の光が灯っていた。

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