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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
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53  南門への疾走、駆ける巨影

 荒野には、まだ血と煙が残っていた。


 砦を背に、リアーネは無言で立っていた。

 両の拳を軽く握り、泥と血に汚れたブーツの裏に、いくつもの戦場の記憶が刻まれている。


 だが、まだ終わりではなかった。


 遥か南門の方角から、誰かの叫び声がかすかに風に乗って届いていた。


 リアーネは、前を見た。


 ――そこに、まだ救われていない声がある。


 次の瞬間、空気を切り裂くような音が鳴った。


 彼女の巨体が、疾風のように走り出していた。


■ 踏み抜く、砕く、走る

「な、なんだこの音……!?」「地震か!? いや、ちが──ッ!」


 砦の前で瓦礫を運んでいた兵士が、背後の風圧で尻もちをついた。


 リアーネの走行が生む風が、砦の壁布を吹き上げ、乾いた地面を引き裂く。


 遠巻きにいたホブゴブリンの一団が、それに気づいて槍を構えた。


 が――意味はなかった。


 彼女は減速しない。

 わずかに右足を振り上げると、踵をそのまま地面に叩きつける。


 突き上げた土と一緒に、槍と兵の上半身が弾け飛んだ。


 左に滑り込むように旋回し、肩の一撃でオーク2体を薙ぎ払う。

 飛ばされた魔物の巨体が木片の山に激突し、骨の砕ける音が響く。


 飛びついてきた小型獣の魔物には、跳躍からの前蹴りを。

 重力と体重を乗せた一撃が杭のように地面へ突き刺さり、地面が大きく陥没した。


「……邪魔」


 短く言い捨て、彼女は再び走り出した。


■ 救出の瞬間

 南門へ向かう途中――視界の隅で、炎に包まれた路地を駆ける人影が見えた。


 避難中に迷い込んだ母子と、護衛の若い兵士だった。

 その先で、斧を構えた大型オークが、今まさに振りかぶろうとしていた。


 リアーネは走りながら腰を低く落とし、片手で瓦礫の塊を掴む。


 そして、投げた。


 砦の壁を砕く勢いで放たれた石が、オークの胴を抉った。

 爆風のような破裂音と砂煙が一帯を覆い、母子が目を見開く。


 リアーネは走りながら、片手を振った。


「もう大丈夫。後ろに下がって、走って」


 振り返りざま、母親が何度も深く頷いた。


■ 跳躍、南門突破

 黒煙の向こうに、ついに南門の瓦礫が見えた。


 崩れた門の下では、冒険者と魔物が混戦していた。


 リアーネは二歩、三歩と助走を取る。

 地面が割れ、粉塵が舞い上がった。


 跳んだ。


 その巨体が空を割るのを、近くにいた冒険者が叫ぶ。


「跳んだぞ!? あの大きさで……!」


 彼女の身体が、崩れた瓦礫の山を越えて、南門の内側に――


 着地。


 ――ズドォン!!!


 地面が爆ぜ、衝撃波が辺りを走った。


 その音に、壁上で弓を構えていた冒険者たちが一斉に振り返る。


■ 巨影、到着す

「なっ……リアーネ!?」「来た……来たぞ!!」


 敵も味方も、一瞬その巨体に呑まれた。


 戦線が一気に動いた。

 リアーネが視線を走らせたその先、剣を握るカイがいた。


 汗に濡れた髪をかき上げ、彼女を見上げる。


 フェイは泣き笑いの顔で笑い、マリナが叫ぶ。


「おっそ~い! もっと早く来なさいよー!」


 ゾルドとリュカは、何も言わずに武器を構え直した。


 その上方、瓦礫の上に立つミレナが小さく息を吐き、ドーガが肩を揺らす。


「……来たか。これでもう、崩れん」


 リアーネは仲間たちの姿を一瞥し、そして、カイの方へ一歩踏み出した。


 目を伏せていたカイの目の前に立ち、静かに、こうつぶやく。


「――遅れて、ごめんね」


 その声に、カイが顔を上げる。


 次の瞬間。


「ひっ……!」「あれが、あれが伝説の……!」


「化け物だ……逃げろッ!!」


 敵の側から、恐慌の叫びが上がった。


 ホブゴブリンジェネラルを中心に、ゴブリンやオークが一斉に後退を始める。

 混乱したまま押し合い、逃げ場を求めて通路を奪い合い始めた。


 それは、絶望の連鎖だった。


■ 終幕の余韻

 リアーネの足元には、割れた瓦礫と砕けた武器。


 その背後には、ついに街を踏み越えてきた“希望の巨影”。


 朝日が、彼女の輪郭を金色に縁取った。

 夜は終わりつつある。けれど、戦いはまだ――終わってはいない。

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