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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
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50 天を裂く咆哮、届かぬ牙

 夜が明ける寸前、風の流れが変わった。

 あれほど乱れていた空気が、今は不気味なほどに凪いでいる。

 静寂は、何かが始まる前の“間”だった。


 その気配を感じ取りながら、リアーネは空を見上げる。


 天に並ぶ三つの影。

 中央には黒鉄の鎧を纏ったホブゴブリンロード。

 小型とはいえ筋肉質なドラゴンの背に跨っていた。


 その両脇には、純白のグリフォンに騎乗するホブゴブリンジェネラルが二騎。

 彼らは三角陣を組み、高高度を保ったまま、静かに旋回していた。


 ロード「巨女よ、貴様の力は知っている。だからこそ“降りて”やらぬ。空こそ我らの城壁よ!」


 リアーネは返事をせず、静かに一つの石を拾った。

 地面に転がっていた、投石機の残骸に近い三メートル級の岩弾。


(そっちがそう来るなら……力押しじゃ意味がない)


■ 見えない敵、避けられる一撃

 リアーネは助走をつけ、岩をフルスイングで投げた。


 だが――


 すかさずジェネラルの一騎が、グリフォンと共に急旋回しながら魔法陣を展開。

 空中に形成された氷の槍が、投げられた岩弾を粉砕する。


 砕けた氷片が霧状となり、視界を奪う。

 その隙に、雷撃と毒霧の魔法が交差し、リアーネの足元に着弾。


 地面がえぐれ、焦げ、立ち位置すら危うくなっていく。


 ブーツに傷はない。

 だが――


(地面すら……奪われる)


 敵は“倒せない”のではない。“届かない”のだ。


■ 届かぬ恐怖、削られる心

 火球、雷撃、毒霧、氷槍。

 ありとあらゆる魔法が、リアーネの巨躯を狙って飛んできた。


 焼かれ、濡れ、凍てつかされ、突かれる。


 けれど――効かない。まるで皮膚に触れただけのように、ダメージはゼロ。

 それでも、心は確実に摩耗していく。


(私は……ただ立ってるだけ。届かない。なにも、できない……)


 これまで踏みつけ、斬り伏せ、圧倒してきた。

 それが今は、ただの的。空からの一方的な戦い。


(こんな……こんな戦い、あるの?)


 孤独の中で、ほんの一瞬、リアーネの肩が沈んだ。


■ 誘いの舞台

 だが、すぐに思考が切り替わる。


(“的”にされているなら……それを利用する)


 リアーネは姿勢を落とし、わざと息を荒く演出する。

 肩で呼吸し、視線を伏せ、疲労を装う。


 ロード「……ふん。限界か。巨体にも息切れはあるらしい」


 空の三騎が動きを変えた。

 魔法の命中率を高めるためか、飛行高度が徐々に下がってくる。


 特にジェネラルの一騎が、毒霧を地上に展開するため低空へ――10メートル圏まで降りた。


 その時だった。


 リアーネは、あらかじめ自身の影に隠していた岩塊を掴む。


 そして――投げない。振りかぶらず、そのまま地面に向かって叩きつけるように足で“蹴る”。


 岩が回転しながら舞い上がり、ジェネラルのグリフォンの左翼に直撃した。


 ジェネラル「しまっ──!」


 その直後、リアーネは走っていた。秒速40メートル。

 地面すれすれを滑るように、落下するグリフォンの真下へ。


 ドオオオンッ!!


 跳びかかるように上体を叩きつけ、地上へ墜落したジェネラルを押し潰す。


 装甲ごと砕けた。グリフォンは潰れ、魔法陣は即座に消失。


 リアーネはすかさず岩陰に身を伏せ、残る一騎の射線から逃れながら、次の仕掛けを整える。


■ 二の矢の準備、反応の観察

 リアーネは、地面を爪先で掘る。

 地中の泥を露出させ、その前に「少しふらついた姿勢」で立つ。


 あえて無防備に見せる。それが罠。


 視線を誘われたもう一体のジェネラルが、間合いを詰めてきた。

 魔法槍を構え、低空からの突き下ろし――それは不意打ちのつもりだったのだろう。


 しかし、足元に入った瞬間。


 リアーネが泥を思いきり蹴り上げる。

 水気を含んだ泥がグリフォンの顔を覆い、騎手の視界が消える。


「がっ……!」


 反応が遅れた一瞬を突き、リアーネは地面に埋もれていた岩を拳で“打ち飛ばす”。


 それは投擲ではない。拳による打撃と同時に飛んだ岩塊が、グリフォンの顔面に直撃。


 ジェネラル「ぐ……おぉおおおおッ!!」


 悲鳴と共に、グリフォンがもつれながら墜落。


 リアーネは駆け寄り、まだ息のあった騎手ごと――


 ドン、と片足で踏み抜いた。


 血と骨の音が、確かに足裏に響く。


■ 残る敵は、一騎

 上空。

 ホブゴブリンロードが、ドラゴンの背で静止していた。


 高高度まで戻ったその口元は、かすかに震えている。


 ロード「……愚か者どもめ。お前を近づけさせるなと命じたのに……!」


 その言葉に、リアーネは軽く髪を払って応じた。

 微笑みながらも、額にはうっすらと汗。


「本当に、届かない相手って……面倒。でも、二人いただいたわ。あと、あなた一人ね」


 ロードは黙ったまま、手綱を握り直す。


(……そうか。策を使うとは思わなかったか)


 彼のドラゴンが、翼を広げる。


 今度は――近づいてくる。

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