48 夜を裂く矢声、若き五人の一矢
夜半。
壁上の松明だけがかすかな輪郭を描き、街の大地は湿った闇に沈んでいた。
昼間の火計で焼け残った敵兵は、まだ動き続けている。
壁の外へ伸びる側道は、煙と血の臭いを帯びた静寂に満ちていた。
■ 交代の鐘、再び立つ者たち
交代の鐘が三度、鈍く鳴った。
休息壕から現れたのは、カイと「鳥足歩兵隊」の四人――ゾルド、リュカ、マリナ、フェイ。
それぞれが手早く武具を確認し、互いに短くうなずき合う。
カイ(剣士・17歳)
(大丈夫、まだ走れる。リアーネ姉が外で耐えてる。俺たちも絶対、崩れちゃダメだ)
ゾルド(盾剣・28歳)
「さて、今日も盾になってやるか。お前ら、俺の後ろにいろよ」
がっしりした肩で盾を鳴らし、兄貴分らしく笑う。
リュカ(弓兵・25歳)
「……月が隠れた。照準は難しいが、狙いは外さない」
長弓を手早く張り直し、夜闇を鋭く読む。
マリナ(軽戦士・23歳)
「ふふ、さて、誰が一番敵を倒すか勝負よ!」
二刀流を軽やかに回し、場を和ませる。
フェイ(癒し手・24歳)
「怪我しても、すぐ戻ってきてね。癒すのは得意だけど……死んだら助けられないから」
白ローブを翻し、優しいが真剣な視線を仲間たちに向けた。
側道の先には、夜用の足止め魔法陣が青く脈打っていた。
■ 音のない突撃
ゾルドが低く指示する。
「音を立てるな。接近戦は誘い込んで、罠で潰すぞ」
リュカが短く、 「来る……」 と告げた直後――。
暗闇の向こうから、角笛が割れる音。
金属の靴音と鎖鎧の軋み。
ゴブリンジェネラルが百余りの兵を率い、側道をなだれ込んできた。
ジェネラル「城門はもうすぐだ! 全て踏み潰せェェッ!!」
マリナ「やっぱ来たね……!」
カイ「全員、落ち着いて! 罠に誘導する!」
マリナがひょいと小石を拾い、前に飛び出す。
拾った石が兜に当たり、怒号が上がる。
ゴブリン「小僧めぇええ!!」
ゾロゾロと最前列のゴブリンたちが殺到してくる。
■ 罠発動、矢と剣と癒し
ゾルド「引きつけろ、もう少し……!」
カイ「あと……今だ、リュカ!」
ピン、と張り詰める空気。
リュカが静かに弓を引き絞り、息を殺す。
一瞬の静寂――
リュカの弓が放たれる。
三本の矢が、ほぼ同時に副官シャーマンの胸、喉、額を撃ち抜いた。
蒼白い魔力が空中でしゅうっ、と音を立てて消える。
マリナ「罠、踏ませた!」
魔法陣が起動し、ゴブリンたちの膝下がぬかるみのように固まる。
「動けねぇ!?」
「足が……!」
悲鳴を上げる敵兵をめがけ、カイとゾルドが突撃する。
ゾルド「俺に続けぇっ!」
盾で敵を押し潰し、剣で首を叩き落とす。
カイは剣を振りながら、心の中で叫んだ。
(リアーネ姉ほどじゃない。でも、俺たちだって──できる!)
マリナが素早く背後から脇腹を切り裂き、
リュカが後方から正確に狙撃を重ねる。
そして――
「ぐっ……!」
ゾルドの肩に槍がかすった。
即座にフェイが駆け寄り、光を帯びた手を傷口へ押し当てる。
「大丈夫、動いて!」
フェイの光が走り、ゾルドの動きが再び滑らかに戻る。
フェイ(止まったら、死ぬ――止めない!)
■ ジェネラル、沈む
怒り狂ったジェネラルが、大斧を振るいかぶせてきた。
ゾルドが低く構え、
「こっちは慣れてんだよッ!」
と叫びながら、全身で受け止める。
押し返す隙間に、カイが滑り込んだ。
一閃――鎧ごと突き刺す。
ジェネラル「ぐ……ぎぃ……!」
巨体がぐらりと揺れる。
そこへリュカの矢が、隙を逃さず目元を射抜く。
さらにマリナが両刃の剣を心臓へ叩き込み、
最後はゾルドの斬撃が首筋を断ち切った。
ジェネラルが崩れ落ち、地面に沈んだ。
カイ「……やった……!」
仲間たちも息を荒げながら武器を構え直し、
フェイが光の癒しを全員に散らす。
マリナが嬉しそうに笑い、
リュカは静かに次の矢を番える。
■ 再び壁へ
カイ「戻ろう。俺たちの持ち場に」
ゾルドが盾を肩に担ぎながら、にっと笑った。
「上出来だ。お前たち、もう一人前だな」
リュカは無言で頷き、フェイは安堵の笑みを浮かべる。
マリナはにっと歯を見せ、剣をくるりと回した。
「次は誰が一番多く倒すか、また勝負ね!」
壁の方角から、再び鐘が鳴る。
夜明けが近い。だが、戦いはまだ続く。
カイ(リアーネ姉も、砦のみんなも――きっとまだ頑張ってる)
血と汗の味を噛み締めながら、
カイは剣を強く握った。
六人の影が、夜の壁へ向かって伸びていった。




