43 高まる空の脅威、壁上の射撃
日の光が街の壁を照らし始めたころ、砦とは異なるこの場所にも“異形の影”が迫っていた。
ワイバーン…鈍重だが火力型、火を吐く。グリフォン…俊敏・旋回性能高く、射撃や屋根に降りるのが得意、合わせて600体にも及ぶ飛行部隊。街の上空に群れをなして襲いかかろうとしている。
■ 強化された壁とボーガン部隊
数日前まで心もとない高さだった街の壁は、リアーネが夜を徹して拳で土台を押し固めたお陰で、二倍以上の強度と厚みを得た。さらに、冒険者ギルドが中心となって制作した高出力ボーガンが数十基配備され、射撃隊が配置されている。
壁上では、射手たちが緊張の面持ちでワイバーンの動きを追い、その後ろに戦士系の冒険者が控えて護衛している。
「落ち着いて……距離に入るまで撃たない!」
「分かってるよ! こいつ、ちゃんと狙いつければワイバーンの鱗も貫けるんだ!」
Cランクの冒険者同士が声を掛け合う。巨大ボーガンの弦を引き絞る音が響き、ぴんと張られた金属弦が今や遅しと待機状態だ。
「みんな、飛行隊が分散してきたぞ! 門の上、北壁、東壁……三方向に分かれてる!」
偵察役のBランク戦士が叫ぶ。グリフォンの機動力はかなり高く、壁の死角を突くように旋回してくる。
だが、街の壁は円周全体に射撃手を配置しており、かつ回転式に人を動かせる体制が整っている。どこから来ても即応できるよう工夫されていた。
■ 空と地上の連携に備える冒険者
「ワイバーンが低空で門を狙ってる……地上部隊と合わせて攻めるつもりね」
Aランクの女剣士が判断し、すぐさま門の付近にEランク冒険者数名を配置する。もしワイバーンが門の上部を叩いてきたら、飛び込もうとする敵を剣士が受け止める形だ。
また、FやGランク組は壁の内側で弾薬補充や支援作業に回されている。事前の訓練で、自分の力量以上の戦場には出ないと決めてあったのだ。
「くっ……来るぞ!」
雲間から急降下してくる十数体のグリフォン。その獰猛な嘴と前足が、壁を超えんと突っ込む。
しかし、それを待ち受けるように「撃てええっ!」という叫び声。カイが組み立てた高出力ボーガンが、一斉に弾を放つ。
■ 初動の大成功
バシュッ!と金属弦が弾かれ、鋭い矢の雨が空を切る。グリフォン数体が翼を貫かれ、悲鳴とともに地面へ落ちていく。
同時に、剣士やAランクの魔術師たちが壁上から追撃呪文を撃ち込む。火球や雷撃がグリフォンを焼き、ワイバーンの鱗を砕き、一気に半数近くを撃退した。
「やった! やれるじゃないか!」
「ふん、こんなの雑魚さ!」
Bランク以下の冒険者たちが湧き上がる。これまで悲観的だった街の兵士も「あれなら勝てるかも……」と一瞬希望を抱く。
■ だが油断ならない
しかし、すぐに第二波、第三波が別方向から襲来し、壁の連携を乱すように動き出した。
ボーガン手を守るはずの戦士が、別の壁へ応援に向かわされ、局所的に手薄になる場面も出始める。
ワイバーンの一体が巧みに高さを変え、壁と壁の間の隙を突いて侵入してきた。
「やばい……ちょっと待て、飛行入ってくるぞ!」
「誰か、迎撃に!」
近くにいたCランク剣士とFランク冒険者が飛び出すが、ワイバーンは凶暴に吼えながら火を吐きかける。Fランク冒険者が悲鳴を上げ、腕に大やけどを負った。
「くそっ……! 下がれ、お前は無理だ!」
Cランク剣士が割って入り、ワイバーンの火炎を剣でなんとかそらすが、吹っ飛ばされて地面に転倒する。そこをBランクの槍使いがカバーに入り、ようやく一撃でワイバーンを仕留める形に。
「……危なかった……!」
その間にも、別の飛行モンスターが屋根の上に降り、建物を爪で崩し始める。傍らでは“壁を集中防衛”しているため、内側まで手が回らない。
■ 上下の連携と苦労
「各班、建物の後ろへ回れ! 屋根に降りた敵は射撃では狙いにくい!」
「ぐっ……壁に集中してたら、内部への対処が遅れる……」
街の冒険者リーダーが歯噛みしながら指示を飛ばす。地形の優位も、空からの多方向襲撃では完全ではないと痛感する。
それでも、壁の上には十分なボーガンや魔術師を残しておきたい。地上部隊が門を突撃してくる可能性も残っているのだ。
「こっちはなんとかするから……そっちは絶対に壁を守れ! 壁が落ちれば全部終わる!」
Cランク剣士がそう叫ぶと、仲間たちが頷き合い、二手に分かれる。片方は壁防衛、もう片方は市街地内部の“屋根に降りた飛行モンスター”を掃討しに走る。
■ 小さな成功、大きな損害
そんな必死の連携で、初期の突入をなんとか抑え込めた。落とされたワイバーンやグリフォンの死骸が街の通りに転がり、冒険者数名や衛兵にも傷や死者が出ているが、「壊滅」には至っていない。
地形を生かした射線、そしてギルドが用意したボーガンの破壊力がなければ、もっと甚大な被害を受けていただろう。皆が口には出さないが、リアーネが強化してくれた壁の恩恵も大きい。
「これが一波、二波だってことか……うわ、まだ空にあんなにいるのかよ……」
ふと見上げれば、上空の飛行部隊はまだ多数がうようよしている。先ほどの突入は偵察や先遣隊に近い規模だったのかもしれない。今もあちこちに散って、街の全周を狙っている。
「でも、いけるぞ……みんな、やれてる……!」
Aランク剣士がそう呟き、自分の肩の傷を押さえる。戦場ではすでに2人の仲間が落命し、さらに数名が重傷を負ったが、それでも街全体は守られている。
ボーガン手たちは再び矢を番え、魔術師は魔力の限界と戦いながら構えていた。
■ 次なる仕掛け
一方、冒険者リーダーは同時に小声でつぶやく。
「……やられっぱなしじゃ、いずれ限界が来る。次の波を迎える前に、火計を……」
既に街のいくつかの路地にオイルや可燃物が配置され、敵が集まるタイミングを見計らって「火攻め」を仕掛ける算段だ。
まだ早いかもしれないが、もし次の大編隊が一度に来るなら、ここが一番効果的かもしれない――誰もがそう思い始めている。
(次が本番か……。頼む、うまく決まってくれ)
リーダーは空を見上げながら意を決する。上空では再びワイバーンが陣形を組み始めている。街の守備隊は傷つきながらも、まだ諦めていない。
──こうして、初動の飛行突入は“壁とボーガン”の対空でなんとか食い止められた。冒険者たちは、傷つきながらも初動を耐え抜いた。
だが、今後さらに大きな波が襲えば、射撃隊や冒険者が消耗しきってしまうかもしれない。
次に来るであろう一斉突撃の前に、火計を仕掛けるのか、それとも他の手を打つのか——街は、息を詰めてその時を待っていた。




