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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
51/95

閑話 隣に座っただけ (挿絵あり)

ゴブリン大規模侵攻が起こる前の訓練時の出来事


■カイ視点

 風が止んでいた。

 さっきまで瓦礫の間を通り抜けていた微風が、今はピクリとも動かない。

 音も、空気も、何もかもが沈黙している。


 その理由は簡単だった。

 隣に、彼女が座ったからだ。


 座っただけなのに。


 ――リアーネが腰を下ろしただけで、地面が、景色が、空気が変わる。


 かつて村だったこの廃墟の中央に、俺はぼんやりと腰を下ろしていた。

 壊れた井戸の縁、かろうじて形を保った石組み。

 背後には崩れた家屋の骨組み、瓦の欠片、煤けた木片。


 俺の左側に、音もなく影が差した。

 直後、ドゥオン、と低い地鳴りのような振動。

 微かに地面が沈み、苔が舞い上がった。


 リアーネが、座った。


 視界の端で見えるその動きは、まるで大地が形を変えるようだった。

 脚を横に崩すようにしながら、片膝を軽く立て、もう一方の脚を前に伸ばす。

 その膝は、俺の肩の何倍も高く、ふくらはぎは瓦礫の山をなぎ倒すように地面に接している。

 

 視線を向ける。

 そこにあるのは、ひとつの壁――いや、丘だ。

 彼女の太腿。

 

 足を組んでいない。普通に横に座っているだけ。

 それなのに、隣にあるだけで、俺の存在がかき消されそうになる。


 リアーネの太腿は、目の前でなだらかに盛り上がり、曲線を描いて向こう側へと消えていく。

 夕陽を受けて照り返す皮膚、その上を流れるように走る筋。

 筋肉があるのに、柔らかさも感じさせる不思議な存在感。

 

 まるで、“大きすぎて輪郭が曖昧になる”風景の一部のようだった。


 しかもそのすぐ奥には、分厚く覆いかぶさるようなブーツの踵があり、瓦礫の上にめり込むように沈んでいる。

 石が砕け、靴底に押し潰された草がぺしゃんこになっているのが、ここからでも見える。


 地面と足の接地面が“崩れる”というのを、俺は生まれて初めて目の当たりにした。


 そして、太腿の上部から視線をゆっくりと上げれば――その先には、腰、腹筋、胸、肩……と、はるか頭上へと伸びていく彼女の身体。

 

 けれど、今はあえてそこを見ない。

 ただ、“隣にある太腿”だけを見ている。

 

 リアーネは何も言わない。

 静かに座り、視線を遠くへ向けている。


 俺はその沈黙に甘えて、少しだけ彼女の脚の近くに座り直す。

 足元に溜まった影が、ほんのわずかに移動する。


 ほんのそれだけのことなのに。

 

 この太腿に、手を伸ばせば触れられる。

 だが、その圧倒的な存在感に、下手に触れてはいけないという直感がある。

 生きている。

 この太腿は、ただそこにあるだけで、命を感じさせるのだ。


 俺の足元に、小石が転がった。

 それがリアーネの膝元まで転がり、コツンと音を立てた。

 すると、彼女は少しだけこちらを見下ろし、笑った――ような気がした。


 その笑みが本物だったかはわからない。

 ただ、ほんの少しだけ、風が動いた。


 彼女が呼吸をしたのか、身体を動かしたのか。

 それだけで、止まっていた空気がまた動き出した。


「……ねえ、カイ」

「ん?」

「こうしてると、全部忘れちゃいそう」

「……なにを?」

「怖いこととか、戦う理由とか。あなたと、ただ座ってると、全部ちっぽけに思える」


 その声は、空に溶けるように小さかった。

 けれど、俺の耳にはちゃんと届いていた。


「なら、忘れてていいんじゃない?」

 俺は言う。

「今だけは、世界より大きな君と、隣にいることだけ考えよう」


 その風の中で、俺はそっと目を閉じた。

 隣にいるその巨きな存在の、太腿の温もりを、影の重さを、心の底で感じながら。


 ――彼女が、座っている。

 それだけで、この世界が少しだけ、安心できるものに思えた。

イメージ図

挿絵(By みてみん)

髪型が変になってしまいました

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