40 巨体の微笑と、一万人将への道
足音が地を震わせるたび、大地が唸るように響いた。
十二メートルの女戦士・リアーネは、黙々と魔物たちの中を突き進む。踏み潰されたゴブリン、蹴り飛ばされたオーガ、砕けた兵器の残骸。そのすべてが、彼女の足跡に刻まれていた。
■ 範囲攻撃を持たぬ巨人
その力と速さは圧倒的でありながら、リアーネは自分の弱点も理解していた。
一度に数十体を薙ぎ払う魔法のような攻撃は持たず、彼女の戦いは常に“踏み潰す”ことの連続だ。だからこそ、数で押す敵には速度を落とせない。
(倒した千人将は……十を超えた? 時間ばかりが過ぎていくわね)
そんな独白をよそに、彼女の唇には自然と笑みが浮かぶ。身体は疲れていない。心もまだ折れていない。ただ、砦の仲間たちを思えば、焦りが少しずつ滲む。
■ 戦う笑顔、その裏に
「逃げるなら、逃げてもいいのに」
片足でゴブリンを蹴り飛ばし、横から来たホブゴブリンを手のひらで掴んで地に叩きつける。無表情に見えるその微笑は、戦意と慈しみが交錯したものだった。
シャーマンの呪文を軽やかに避けて踏み潰し、仲間の癒し手にも同じ一撃を与える。リアーネは、ひとつずつ確実に、丁寧に、敵を処理していく。
■ 千人将を狩る者
幾度となく彼女は千人将クラスを仕留めてきた。
オーク将軍、ホブゴブリンの隊長、ゴブリンリーダー――いずれも巨体の前には無力。敵の隊列は壊れ、恐怖が伝播していく。
(半数以上は倒した……でも、まだ“本命”は出てこない)
遠く山道の方角には、なお続く黒い波。砦の上空には、時折閃く弓と魔法の光。
リアーネはそれを見て思う。
(みんな、自分の持ち場で頑張ってる。なら、私もやり切らなきゃ)
■ 異質な陣形との遭遇
そのとき、明らかに“他とは違う”部隊が目に入った。
整った隊列。前衛は盾兵、後衛は槍と魔術師が並び、中央には大型のミノタウロス。副官らしきシャーマンとプリーストの姿もある。
「あら……やっと少し、手応えありそうね」
リアーネは息を吐き、地を踏みしめた。その巨体が再び疾走する。
「潰す!」
前衛の盾兵たちが槍を構える。だが、真正面から突っ込んだリアーネの蹴りで、列ごと吹き飛ぶ。
叫び声と衝撃音が混ざる中、後衛の術者たちが呪文を唱えるが間に合わない。踏み込み、押し潰し、吹き飛ばす――その全てが一瞬だった。
最後に立ちはだかったミノタウロスが斧を構えるが、彼女はその腕を弾き、頭部を片手で握り潰す。
「……また一つ」
崩れた戦場に微笑を残し、リアーネは額の汗を拭った。
■ 一万人将、ついに現る
次の瞬間、遠くから咆哮が響いた。
空気が揺れるような魔力の振動とともに、旗を掲げた集団の中央に、異様な存在が立っている。
「……やっとね」
その圧は明らかに違った。雰囲気、威圧感、魔力の揺らぎ――一万人将。
種族は不明だが、リアーネには確信があった。
(ここで倒せば、砦の負担は軽くなる)
軽く足を鳴らし、笑みを浮かべる。
「さあ、少し本気でいくわよ」
再び加速する。戦場を蹂躙してきた巨体が、ついに“格上”へと挑む。
──1万人将との邂逅。
それは、この戦いの本番の始まりだった。




