39 孤軍奮闘、千人将狩り
砦を背に、リアーネはなおも単独で奔走していた。バリスタと投石機の破壊を終えたその足で、さらに敵陣の奥へと踏み込んでいく。十万を超える魔物たちは点在しながら砦へ押し寄せようとしており、その陣形に乱れが生じているのは明らかだった。
山間の冷気が肌を撫でる中、十二メートルの巨体が静かに立ち止まる。地上十メートルを超えるその視点は、地形と敵の動きを正確に捉えていた。彼女が狙うのは、まだ本隊を動かしてこない敵の“中核”――千人将クラスの指揮官たちだった。
「さて……どこかしらね、指揮系統の要は」
速度を落としつつ歩を進める。雑兵をいくら踏み潰しても、戦局は変わらない。千人将の排除こそが、本隊の動揺を引き起こす鍵になる。
■ 一人目の千人将
遠方、整ったオークの隊列が目に入る。中心には威圧的な装束を纏ったオーク将校と、それを補佐するように立つ複数のゴブリンシャーマン。どう見ても、単なる歩兵の集団ではない。
「ふふ、まずはあれから」
リアーネは膝を沈め、地を蹴った。瞬間、地鳴りが走る。秒速四十メートルを超える突進が、魔物たちの平静を引き裂いた。
「ひ、引けっ――!」
オークたちが慌てて叫ぶが遅い。シャーマンの詠唱も途中で遮られ、リアーネの足が隊列に突き刺さる。
ズシャッ。
一蹴で数体が吹き飛び、中心のオーク将校も踏み砕かれる。血飛沫と肉片が散り、命令系統は崩壊。恐慌状態に陥ったオークたちは、抵抗もせず散り散りに逃げ去った。
■ 二人目の千人将
次に見えたのは、盾を構えたホブゴブリンの部隊。その中央には大柄なホブゴブリンと、後衛にはゴブリンプリーストの影。
「連携……悪くないけど、遅いわ」
リアーネは踏み込む。盾ごとまとめて薙ぎ払う蹴りが炸裂し、ホブゴブリンたちは防御も叶わず吹き飛ばされる。
中心の千人将は転がりながらも剣を構えようとするが、その前にプリーストたちが癒しの呪文を叫ぶ。
「間に合わないわよ」
ズシャ。リアーネのブーツがプリーストたちを押し潰す。再び冷ややかな視線をホブゴブリンへ向けると、彼の体は既に限界を迎えていた。
最後に軽く蹴られ、地に沈んだ。
■ 誘いと挑発
「ふう……これで二人。まだ出てこないの?」
リアーネは大声で言い放つ。十二メートルの体から放たれる声は、周囲の空気を震わせるほどだ。
「あなたたちの上司、1万人将ってやつ。いつまで雑兵だけで戦うつもり?」
だが返答はない。むしろ怯えた魔物たちがさらに距離を取っていく。
「仕方ないわね……なら、もっと狩るだけ」
リアーネは歩を再び進める。次なる標的を探し、広がる戦場を“巨人の目”で見渡しながら。
──砦の視界から外れた場所で、孤独な巨人が淡々と敵の指揮系統を破壊していく。
その足音は、まるで戦場に打ち鳴らされる鐘のようだった。




