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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
42/95

閑話:川辺のひととき (挿絵あり)

~訓練の合間に起きたとある出来事~


 昼下がりの陽が、森の隙間から川面に差し込んでいた。

 その穏やかな景色を、大きく歪ませる存在がひとつ。


 リアーネ――身長12メートルの戦士。

 その巨体が、今まさに川へと沈み込もうとしていた。


 


 ズブン――ッ!!


 彼女の両脚が川へ入った瞬間、凄まじい水飛沫があがった。

 波頭が砕け、半身ほどの水が飛散し、周囲の木々の葉がばさりと揺れる。


 「うわっ……!」


 岸にいたカイは、反射的に腕で顔をかばった。

 飛んできた雫の粒は、**“雨粒”ではなく“しぶきの弾丸”**のようだった。


 水が落ち着いた頃、リアーネは川の中央、なだらかな岩場に腰を下ろしていた。

 片膝を立てて、肘をまわし、ぐっと上体を反らす。


 金色の髪が水に濡れて光を弾き、しなやかな腹筋の上を雫がつうっと流れ落ちていく。


 「……はぁ……。やっぱり、こういうのがいちばん気持ちいい……」


 彼女の吐息が、ぬるい風を生んだ。

 その風は草をなびかせ、川の流れさえ一瞬ためらわせた。


 


 岸の岩場にいたカイは、呆気にとられて立ち尽くしていた。


 「……なんだよこれ……入っただけで川の地形が変わったぞ……」


 リアーネの体重で水位が一時的に上がったのだ。

 しかもその全長が川幅の半分以上――。もはや水浴びというより、**“地形改造”**に近い。


 リアーネが気づいたように笑って、こちらを向いた。


 「そっちまで飛ばしちゃった? ごめんね」


 そう言って、ぬれた髪をざっとかき上げた――


 ざあっ


 空から水が降ってきたかと思うような音と共に、再びカイに水しぶきの雨が襲いかかる。


 「って、もう! そっちでは普通でも、こっちには滝なんだってば!」


 「ふふ、ごめんごめん」


 リアーネが肩をすくめる。その動きだけで、木漏れ日があちこちで跳ねた。


 そのまま彼女は、左手をすっと伸ばす。


 「……こっち、来る?」


 その手は、濡れていた。

 わずかに陽を受けた肌から水が湯気のように昇っている。


 カイは目を細めた。


 「……おい、もしかして、お前……」


 「うん。太陽浴びるとすぐ乾くけど、冷える前に動かすのよ」


 リアーネは静かに、日差しの中で腕をかざした。

 水滴の蒸気が、彼女の体温の高さを物語っていた。


 「手、冷たくない?」


 「大丈夫。ちゃんとあったかいよ」


 そう言って、リアーネの片手がそっと降りてくる。


 


 指一本だけでカイの身体の半分が包まれた。


 ぬるくあたたかい――だが、それ以上に“重み”が違った。


挿絵(By みてみん)



 「うわ……でけぇ……」


 カイがそう呟く前に、体がふわりと持ち上げられていた。


 リアーネの手のひらの上、そこはまるで柔らかく温かな板のようだった。

 けれど、指が少しでも動けば、そのまま身体ごと滑り落ちそうな緊張感もある。


 「落とさないから、安心して」


 巨大な声が、空からそっと降りてくる。

 見上げれば、空の中にひときわ大きな顔――月のような微笑がそこにあった。


 「はは……完全に世界観バグってるわ……」


 リアーネはその手でカイをゆっくりと岩の上に戻す。

 そしてまた、両脚を川に沈めたまま、ぐっと空を仰いだ。


 


 その姿は、まるで森の女神のようだった。


 呼吸のたびに水が揺れ、髪がきらめき、雲が流れる。


 ふと、リアーネが口を開く。


 「……こういう時間、大事だと思うのよね。戦いばかりじゃ、私たちが擦り切れちゃう」


 「お前は擦り切れなさそうだけどな」


 「心がね」


 リアーネの視線が、空からカイへと降りてくる。


 そのとき、木々のさざめきも、川の音も、すべてが静かになったように感じられた。


 


 カイは思った。


 ――こんなにも大きくて、こんなにもやさしい背中が、今、目の前にある。


 自分はその影に守られて生きている。

 そしていつか、自分も彼女を支えられるようになりたい――そう思った。


 「……この世界には、この背中があるんだ」


 濡れた手を、カイはそっと握りしめた。

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