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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
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33 不安渦巻く街の内側

 街の中央、議事堂の広間に重苦しい空気が満ちていた。

 ギルドの幹部、有力な商人、防衛を担う衛兵隊長、そして辺境伯の家令代理――この街の舵取りを託された者たちが集い、急きょ招集された会合が静かに始まろうとしていた。


 広間の奥には長机が据えられ、家令とギルドの受付嬢が並んで座っている。ふたりの表情には、隠しきれない疲労と、かすかな焦燥がにじんでいた。


「諸君、まずは現状を確認しよう」


 家令が低い声で口火を切る。

「魔物の大軍――特にゴブリンの集団が、街の近くまで迫っていることは確かだ。ただし、正確な数を公にすることについて、辺境伯は否定的である。“民心の混乱を避けよ”というお達しだ」


 静かなざわめきが広間に広がる。

 衛兵隊長が腕を組み、真剣な面持ちでうなずいた。


「防衛線の強化は進んでいます。とりわけ門周辺には魔物の集中が予想されるため、周辺住民を“中央寄りの区画”へ避難させる計画を進めています」


「避難ルートの誘導は? 混乱が起きれば、壁も守備隊も意味を失うぞ」


 商人のひとりが苛立ちを押し殺して問いかける。

 彼らにとってこの非常事態は死活問題でありながら、人脈を駆使して物資や輸送を支える役割も担っていた。


 一方、受付嬢レナは両手を机の上で組みながら、神妙な面持ちで口を開いた。


「……皆さんもご存じのはずです。外壁を“あの巨大な戦士”が強化したことを」


 その言葉に、空気が再び揺れる。


「あれほどの規模の作業を、あの短時間で、あのひとりで。正直、最初に見たときは……怖かった。あんな存在が味方じゃなかったらと思うと」


 広間の隅々で、うなずきと視線の交差が起こる。

 圧倒的な力――それが“味方”でなければ、という背筋の冷たさは、誰もが共有していた。


 だが、家令が重々しい口調で言葉を継ぐ。


「……あれが本当に脅威だったなら、とっくにこの街は崩れている。だが彼女は、我々を壊していない。むしろ、守ろうとしている」


 レナが息を吐き、小さくうなずく。


「はい。ですから、住民への説明は『非常に強力な助っ人がいる』とだけ伝えます。姿も力も規格外ですけど……それでも、私たちの側に立っている。それだけを信じてほしい」


 一部の冒険者が同席していたが、誰ひとり口を開かなかった。

 市民の多くがリアーネの姿をすでに目撃している。混乱と恐怖は、既に広がっていた。


 そこに「敵は数万規模」と伝えるのは、火に油を注ぐようなものだ。


「避難に関しては、門周辺を完全に空けるのが最優先です」


 衛兵隊長の言葉に、地図が広げられる。

 リアーネが積み上げた防壁や瓦礫の山は、地図にはまだ描かれていないが、現実の風景はすでに大きく変わっていた。


「住民は北側と中央ブロックに分散して誘導します。突発的な襲撃にも、ある程度の余地は作れるはずです」


「……時間を稼げれば、それで十分。逃げ道があれば犠牲は減る」


 ある者がぽつりとつぶやいた。


 しばらくして、別の声が会議の熱を変える。


「でも……あの巨女戦士がいれば、本当に壁も街も守れるんじゃないか?」


 それを皮切りに、他の者も不安と期待を口にし始める。


「あの大きさなら、一人で百どころか千、いや、二千のゴブリンも相手できるかもしれない」


 その声に、安堵の吐息も混ざる。

 だがそれは同時に、“彼女がいなければ終わる”という裏返しでもあった。


 家令が、最後のまとめに入るように口を開く。


「――民には、“必ず守り抜く”と、はっきり伝えるべきだ。勝利を疑う空気は、誰の心にも入り込ませてはならない」


 レナも、少し強い声でそれに応えた。


「ええ。壁は高く、厚く、投石台も整っています。市民には、私たちの覚悟と安心を届けなければなりません。……敵の正体も、数も、すべては伏せるとしても」


 そして一瞬の間を置き、少しだけ震えのある声で言った。


「それでも……勝てると、信じてもらわなきゃ」


 その言葉とともに、会合は形式的に締めくくられた。

 一見前向きな空気に包まれて。


 だが、議事堂を出る背中には、ひとりひとり異なる重さがにじんでいた。

 誰もが理解していたのだ。


 ――もし、あの巨大な戦士が倒れたら。

 ――もし、敵がそれ以上の手を使ってきたら。


 そんな不安を言葉にする者はいなかった。

 いまはただ、全員が一丸となって備えるしかない。


 そのとき、外の空気がかすかに震えた。


 “ドン”


 遠く、重く、空気を押し出すような低い音が届く。

 リアーネが外壁の仕上げを続けているのだろう。大地が、石畳が、わずかに鳴った。


 静かな議事堂の壁の向こうで響くその一音は、彼女がそこにいる証だった。

 守るために存在する力――だが、同時にこの街が最も恐れる存在でもある。


──こうして街は、希望と畏れを背中合わせに抱えたまま、静かに戦の足音を聞いていた。

誰もが、胸の奥で“次の一歩”を予感していた。

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