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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
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32 城壁強化の巨影

 翌朝、まだ日が昇りきらない街の外れに、異様な緊張感が漂っていた。

 ゆっくりと、しかし重々しい足音が近づいてくる。踏みしめるたびに、石畳の継ぎ目がわずかに軋み、地面に溜まった砂塵が舞い上がる。


 その主は――身長十二メートルの巨大な女戦士、リアーネ。昨晩までに百丁のボーガンを完成させた彼女は、さらなる守りのため、街の外壁の強化に乗り出していた。


 その姿が見えると、門を守る衛兵や通りがかった商人たちは、反射的に動きを止める。人ひとりでは持ち上げることもできない大岩や金属塊を、木片のように軽々と扱う姿は、驚嘆すら通り越し、“畏怖”へと変わっていく。


 足元を見上げれば、百八十センチ近い高さのブーツが聳え立ち、その上へと脛、膝、太腿が延びていく。膝の位置は三メートルを超え、腰は建物の二階よりもさらに高い。朝の薄明かりに浮かぶその姿は、建物の影よりも濃く、圧倒的な“巨影”を地上に落としていた。


「……またすごい光景だな」 「こっちに来るぞ。下がったほうがいい」


 衛兵たちは思わず道を譲る。リアーネは門の前で片足を軽く上げ、その巨大な脚で門をひょいと跨いだ。幅も高さも足りない街門は、彼女にとってただの段差に過ぎない。その軽やかな動きひとつで、空気がぐっと重く沈む。


 彼女は空間収納から巨大な岩塊をいくつも取り出すと、自分の爪を改造した超硬の短剣をひと振り。刃が触れた瞬間、岩は鈍く軋み、数百キロの質量がひしゃげるように砕けた。次の瞬間には、それが角材状に切り分けられ、まるで粘土でも扱うかのように並べられていく。


 窓辺や路地の奥から、その光景を見つめる街の住民たち。

 母親が幼い子を抱き寄せて家の中へ急ぎ、屋根に登っていた若者は、転げ落ちそうになりながらも体勢を戻す。視線に宿るのは、期待か、恐怖か。それとも、その両方か。


 リアーネの視線が、街の外壁に向けられる。

 高さは、わずか四メートルほど。敵は、二万を超える――。


 とても持ちこたえられる構造ではない。


 彼女は黙って岩を積み上げ始める。ザクッ、ザクッと刃が入るたびに重厚な音が響き、振動が耳の奥へ届く。刃先のわずかな動きで巨大な石が整形されていく様子は、もはや彫刻というより「創造」そのものだった。


 衛兵たちや通りがかりの冒険者たちが、遠巻きに作業を見守る。


「……うそだろ。ひとりであんな……」 「いや、きっとあれでも手加減してるんだろうな……」


 積み上げられた石はどんどん高くなり、厚みを増し、やがて簡易的な投石台が組み込まれた。傾斜を工夫して作られた足場は、人間でも登れるよう設計されている。手際の速さと精度に、誰もが目を奪われた。


 ズン、とブーツが石畳を踏みしめるたび、視界の端が揺れる。

 それでもリアーネは黙々と、東西南北、順に足を運び、各方角の防壁を仕上げていった。


 家の陰から、その姿を窺う人々の声が低く交わる。


「……ありがたいけど、あれ、本気で暴れたら街ごと吹き飛ぶんじゃ……」 「怖いよ。ほんとに人間なのか?」


 それでも彼女は振り返らない。

 ひたすらに、砕き、運び、積み上げる。


 圧倒的な力を持ちながら、それを破壊のためでなく、守るために使っている。

 その事実だけで、人によっては、なおのこと「異形」と映ったかもしれない。


 やがて、太陽が中天に差しかかる頃。外壁は、元の倍近い高さと強度を備えていた。

 正門を中心に、三方向に連なる瓦礫と岩の防壁。試射された石弾は遠くへ飛び、改修の効果を静かに証明する。


 リアーネの肩ほどしかなかった外壁は、今や彼女でも少しかがまなければ覗けないほどに変貌していた。


「――これで、少しは耐えられるはず」


 リアーネは小さく息をつき、そっと膝をつく。

 砕き、積み、整える――その繰り返しは、いかに彼女といえど負担を残す。それでも、その横顔にはわずかな安堵の色が浮かんでいた。


「うわ、なんだよあの城壁……。一晩かそこらで変わりすぎだろ……」


 荷車を引いていた商人が呆然とつぶやく。

 冒険者たちも、言葉を失ったまま立ち尽くしていた。


 そんな中、ぽつりと声が上がった。


「すごいよ……あんなに大きいのに、街をちゃんと守ろうとしてくれてるんだから……」


 沈黙。

 誰もが思っていたことだが、それを言葉にするのは勇気がいった。


 リアーネはその声を聞いたかどうかはわからない。ただ、背を向けたまま、石の破片を払うように手を振り下ろす。その手は優しく、誇り高く、そして少しだけ寂しげにも見えた。


(……怖がられても構わない。守れれば、それでいい)


 そう思いながら、彼女は軽く肩を回す。

 二十六トンの巨体がわずかに動くだけで、足元の小石がコロリと転がった。


 敵か、味方か。そんな単純な言葉では測れない存在――

 しかし、いま確かにこの街を守っているのは、“巨女”リアーネに他ならなかった。


 そして彼女は、刺さるような視線を受けながらも、何ひとつ表情を変えず、淡々と次の作業を思案する。

 指についた砂を払い落とし、そっと空を見上げた。


 真に脅威が迫るのは、これから。

 そうして、街の運命を変える巨影は、また一歩を踏み出す。


──こうして街は、ひとりの異形によって、大幅に補強された城壁を手に入れた。

その足跡が、近づく戦乱の序章を静かに刻んでいた。

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