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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
2章 迫る大軍、迎え撃つ
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31 大きな手の工房

 昼食を終えたリアーネは、静かに立ち上がると、空間収納から巨大な石の塊と木材の山を取り出した。身長十二メートルの彼女にとっては“腰の高さ”にも満たない素材でも、普通の人間にとっては三階建ての建物に相当する、まるで巨塔のような規模だった。


 この日、リアーネとカイが取り掛かるのは「Fランク付近の冒険者用ボーガンを百丁分ほど生産する」という一風変わった依頼。冒険者全体の戦力底上げのため、最も簡素な構造のボーガンを大量生産する必要があったのだ。だが、街にはそれだけの鍛冶設備も人手もない。そこで――


「私が素材を加工するから、カイは組み立てをお願い」  リアーネは笑顔を浮かべると、右手に携えた“自作の武器”を軽く振った。それは、自らの爪を素材に加工した超硬質の剣。鉄や石すら豆腐のように切れる、常識を逸した代物だ。


 リアーネは腰をかがめ、数トンはあろうかという石のブロックをまじまじと見つめる。次の瞬間――。


 ザクッ……ザクッ……。


 一振りごとに巨塊の角が削られ、地響きを立てながら岩屑が崩れ落ちる。落下した石片が地面にぶつかり、小さな振動が空気を揺らした。周囲には粉塵が舞い、太陽の光を淡く遮って霞ませる。


 数百キロ単位の石材や厚い金属板が、リアーネの手の中で次々と角材や板材に姿を変えていく。削り取られた破片の雨が地面に散らばるさまは、まるで別世界の彫刻家のようだった。


「……ほんとに、石も金属も削ってるんだな……」  カイはその圧倒的な質量と手際に、思わず息をのむ。さっきまで自身の腰より高かった石材は、いまや肩幅にも満たないサイズにまで分解されていた。


「できるだけ組み立てやすいように寸法は揃えてあるわ。あとはカイが、釘や留め金を打ち込めば完成」  リアーネは丁寧に各部品を区分けしながら、慎重に地面へ並べていく。その手のひらはカイの全身を包めるほど大きいにもかかわらず、信じられないほど精密に動いていた。


 とはいえ、素材が整っていても百丁分の組み立て作業は地道な繰り返しだ。カイは木釘や金属パーツを抱え、ひとつひとつ検品しながら作業を始めた。


「……すごい精度だ。組み立てのたびに、ぴたりと噛み合う……」  手に伝わる感触に、カイはリアーネの経験値と集中力を思い知る。巨大な指先でここまでの仕上がりを実現できるのは、常人の手業ではない。


 一方、リアーネはさらにもう一つ石材を取り出し、淡々と次の部品を削り出していた。その様子は、まるで子どもが砂場で遊ぶような軽やかさで、見ているカイもつい苦笑をこぼす。


「途中で飽きたら教えて。今日は休憩しながらでも間に合うはずだから」 「そう言っても、百個って……気が遠くなる数だよ」 「大丈夫、私は今日中にやり遂げるつもりでいるから」


 その言葉どおり、昼過ぎには部品の山が整然と並び、カイはすでに二十丁ほどを組み上げていた。


 そのころ、リアーネは一つの武器を取り出していた。削った石材の山とは異なり、銀と黒が交じる光沢を持つそれは、明らかに“特別製”だった。


「カイ」  リアーネは片膝をつき、右手を差し出す。その大きな掌の中央に、長剣が横たわっていた。


「これ、あげる」 「……え、これって……」 「カイのために作ったの。私の爪の一部を使ってあるから、鉄でも骨でも簡単に切れるよ。雑に振ると、いろんなものを斬っちゃうかもしれないけどね」


 軽く冗談めかした口調。しかしその目は、どこか誇らしさと覚悟を滲ませていた。


 カイは両手で慎重に剣を受け取る。重みがずっしりと伝わり、持ち手にはぴったりと手に馴染む革のグリップが巻かれている。


「……本当に、俺のために?」 「うん。いざという時、私がそばにいなくても、自分を守れるようにって。――ずっと前から用意してた。でも……今なら渡してもいいと思ったの」


 少し間を置き、リアーネはまっすぐ見つめる。


「ただし、“私がいない間だけ”しか使っちゃダメ。いい?」 「……わかってる。これは、いざというときだけの力だ」


「約束ね」 「うん。約束する」


 静かに頷いたカイに、リアーネは満足げに微笑んだ。


 その後もふたりは、黙々と作業を続けた。リアーネは腰の高さまである石材や鉄塊を手際よく切り出し、カイはそれを精密に組み立てていく。夕日が傾く頃には、完成したボーガンの列が視界の端までずらりと並ぶほどになっていた。


 そして、日が沈みきる頃。


「……よし、全部できた」  カイが最後のボーガンを組み上げ、長く息を吐いた。


 その声に応えるように、リアーネが静かに手を叩いた。巨大な掌のひとつ分だけで、カイの身体が包み込まれそうな拍手が、柔らかく響く。


「本当に、よく頑張ったね。今日のふたりは、完璧よ」  その声は、誇りと優しさを含んでいた。


「明日、ギルドに届けよう。防衛の準備も進んでるはずだし」 「うん……うん、わかった」


 整然と並んだ百丁のボーガン。それはまるで、次なる戦いに備えて静かに息を潜める兵士たちのようだった。


 リアーネはそっと腰を下ろし、体を横たえる。足が大地を優しく撫で、カイの隣に巨大な影が伸びた。


「明日も、きっと忙しい一日になる。今夜は、しっかり休もうね」 「……うん」


 夜空には星がまたたき、ふたりの影は静かに闇へと溶けていった。

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