閑話:迫る軍勢、火を噛む瞳
辺境の砦――そこは荒涼たる岩場に築かれた要塞であり、人々をゴブリンの侵攻から護るために長年機能してきた。
その城壁をぐるりと巡回する兵士たちの顔には、今、ある種の不安と焦りが混ざっていた。
「……報告いたします。北方の森で斥候より緊急の伝令。あきらかに通常のゴブリン群より行軍速度が速く、隊列も組織だっているようです。総数……数万規模とも」
差し出された報告書を受け取り、辺境伯アグラン(50歳)は、野太い声で唸った。
身長220センチ、丸太のような腕で軍服を着こなし、その顔にはいくつもの傷跡が走っている。
「数万か。まるで前にもあった“大軍”の再来じゃねえか。……動きが早すぎる。ゴブリンにこんな統率が利くとはな」
アグランは黒木製の椅子に腰掛け、膝に肘を乗せて拳を握る。
一見脳筋のようだが、その眼光は辺境を護ってきた賢さと直感を宿している。
「閣下……どうなさいます?」
側近の老兵が静かに問う。アグランは地図を見つめて息を吐いた。
「何人もの斥候を出しているが、どうも“奴ら”には計画がありそうだ。弱い隊を囮にして、こっちに圧をかけやがる。……それに――」
一度溜息をつき、言いかけた言葉を飲み込む。
「噂を聞いたか? “9メートルの女戦士”がゴブリンの集団を蹴散らしたって。ギルドが大騒ぎしてるらしいじゃねぇか」
「は……存じております。リアーネとかいう名で……我らの砦に勝るとも劣らぬ力があるとか……」
アグランはニヤリと笑った。
「そいつが本当にそこまでの化物なら、この大軍を迎え撃つ大駒になる。……俺の勘だけどな、こんなゴブリン軍団が来るときに“でかい戦士”が現れるのは、何か因縁を感じるんだよ」
老兵は眉をひそめる。
「しかし閣下、もし噂通りの超巨大で無敵な存在なら……仲良くしておくに越したことは……」
バンッ!とアグランは机を叩き、立ち上がった。
「知ってる。俺だってバカじゃねえ。こっちが利用できるもんなら利用する。しかしな――」
唇を歪めるアグランの目は、まるで少年のように輝いている。
「“でかい”からって本当に強いとは限らねえ。……俺は確かめに行く。自分でな」




