表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
27/95

22 戦火に立つ影(前編)

 森の夜は深く、空気はひんやりと肌を刺す。

 木々の間から見上げる星空は澄んでいて、その静けさがかえって不穏な気配を孕んでいた。

 焚き火の火が、風に合わせてゆらゆらと揺れている。


 今宵、リアーネたちは森の奥の小さな広場で野営していた。

 D級冒険者4人――盾役の剣士ゾルド、弓を背負うリュカ、軽装の戦士マリナ、そして癒し手フェイ。

 カイと、外れにどっかりと座る“巨影”――リアーネ。

 9メートルの女戦士は、ただそこにいるだけで空間を支配するような存在感を放っていた。


 「この人が……俺たちを助けてくれた、リアーネさん……」

 焚き火を見つめながら、癒し手フェイがぽつりとつぶやく。

 少し離れた場所で、弓兵のリュカが火に手をかざしながらうなずいた。

 「正直、最初は“怖い”って思ってたけど……あの背中は本物だよな」


 ゾルドが同意するように息を吐く。

 「俺たちが村を救おうとした時、現れて……圧倒的な力でゴブリンを蹴散らしてくれた。

  なんでそこまでしてくれたのか、ずっと不思議だったんだが……」


 軽戦士マリナは小声で笑った。

 「理由なんて、あの大きな笑顔を見ればじゅうぶんじゃない?」


 その言葉に、リアーネはゆるやかに微笑んだ。

 肩幅は2メートルを超え、腰の高さは5.5メートルにも及ぶ。

 月明かりの下で見上げるその姿は、まるで森に立つ壁のようだった。


 「……怖いと思うのは、自然よ。でも――私はあなたたちを信じてるわ」


 その穏やかな声を聞いて、ゾルドが思わず視線を向けた。

 「どうして、俺たちを……?」


 リアーネは少し上を仰ぎ、木々の先にある星空を見ながら言った。

 「あなたたちは、他人の危機を見て動く人たちだから。

  己の強さだけで行動する者より、そういう人を信頼したいと思うの」


 焚き火の揺れる光に照らされながら、カイが笑った。

 「姉ちゃん、信じるのは得意だからね」


 夜はしんしんと更けていく。

 巨大な影の見守る中、彼らは交代で見張りをしつつ、静かに睡魔に身を委ねた。


 翌朝。

 鳥のさえずりが森にこだまする頃、5人と1人は森の中を進んでいた。

 リアーネの一歩に合わせて、ほかの者が6歩以上を刻む。

 マリナが微笑み混じりに呟く。

 「……ブーツの横幅だけで私の肩幅あるって、すごいわね」


 ゾルドも苦笑して応じる。

 「だよな。膝の位置が2メートル超えてるし……壁かよって何度も思う」


 リアーネはそんな会話にくすりと笑いつつ、足のペースはゆるめない。

 朝露に濡れた木々をかき分けながら、目的地――森林に囲まれた開けた谷地を目指していた。


 数時間後。

 視界が開けると、そこにはゴブリンたちがうごめいていた。

 約300体。指揮官はゴブリンジェネラル。オークやゴブリンシャーマンも混ざり、隊列を組んでいる。


 リアーネが木々の上から視線を這わせる。

 9メートルの高さから見下ろすその眼差しは、谷の構造と敵の布陣を一望に捉えていた。


 「……囲まれやすい地形ね」

 リアーネが小さくつぶやく。だが、その目に恐れの色はない。


 ゾルドが盾を構え、リュカが矢筒に手を伸ばす。

 マリナは足元の地形を確認し、フェイが静かに周囲の気配を探っていた。


 カイは息を整え、少し声を落として言った。

 「予定通り、わざと罠にかかって敵の配置を引き出すんだよね。俺たちは前半分を受け持つ。姉ちゃんは後ろ半分を」


 リアーネは静かに頷く。

 「投石と視線の圧だけで、ある程度は抑えられる。動きすぎると地形が壊れちゃうから……なるべく座ったまま押し返すわ」


 各自がそれぞれのポジションへ向かおうとすると、リアーネが穏やかに声をかけた。


 「……カイ。あなたは、この戦いで“ひとりの戦士”として立つのよ。私の助けを待たなくても、きっとやれる」


 カイは剣の柄を握りしめ、深く息を吐いた。

 わずかな指の震えを、自分の掌で押さえ込むようにして言葉をこぼす。


 「……うん。やってみせる。姉ちゃんの代わりじゃなくて、俺の力でね」


 リアーネは満足そうに頷き、片膝をついて構えを取った。

 9メートルの女戦士と、5人の冒険者。

 ――今この瞬間、彼らは“並び立つ”存在だった。


 森を覆う風が止み、わずかな静寂が訪れる。

 遠方にうごめくゴブリン軍のざわめきが、かすかに木立を震わせる。


 巨影が唸りを上げ、小さな剣が風を切る。

 森が牙を剥くとき、彼らの決意が試される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ