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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
24/95

20 夜の語らい、静かなる影 (挿絵あり)

 太陽が山の端に沈むと、辺境の街には夜の帳が落ちた。

 その外れにある小高い丘――草の波が風に揺れる静かな場所で、リアーネは横たわっている。

 彼女がいつも眠る場所だ。街の人々を驚かせないために、遠くから見守るように過ごす場所。


 カイは、なだらかな斜面を踏みしめながら、ゆっくりと丘を登ってきた。

 「姉ちゃん、来たよ。……って、やっぱりデカッ……」


 目の前には、闇に浮かぶ金髪の女戦士のシルエット。

 月明かりでさえ、彼女の全身を照らすには足りないほど大きい。木々より遙かに高く、まるで丘そのものが息づいているかのようだ。


 「姉ちゃん?」

 カイが呼びかけた、その瞬間。


 ――ドンッ!


 空気が震え、巨大な足がカイのすぐ隣に降ろされた。

 ブーツの厚底だけで10センチ。体重は10トン近い。

 踏み下ろされた衝撃で草と土が舞い上がり、カイは思わずバランスを崩す。


 「うわっ! お、おいっ!」


 上げかけた声にかぶるように、リアーネの柔らかな笑い声が聞こえた。

 「ふふ、びっくりした? ……でも、揺れなかったでしょ? この丘、地盤が強いみたい。助かるわね」


 カイは、かすかにふらつく足元を落ち着けながら、思わずブーツを見上げる。

 くるぶしの高さだけで50cm、膝が2.6メートル――彼の頭上よりはるかに高い。

 「……ブーツの上まで俺の胸くらい、膝なんか顔よりずっと上……

  ていうか、ジャンプしてもハーフパンツに届かないんだが……」


 軽く跳んでみても、指先がまるで届かない。

 横幅1.2メートルもある太腿は、まるで岩の壁のように堂々としている。


 「……縮んだ?」

 リアーネが冗談めかして言うと、カイは思わず苦笑いした。

 「いやいや、俺が縮んだわけじゃないから……!」


 それでも小さく拳を作り、リアーネの膝裏やブーツにトントンと十発ほどパンチを返す。

 「よくもさっき隣にドスンって踏み下ろしてくれたな!」


 リアーネは痛がる様子もなく、楽しげに笑ったまま首をかしげる。

 「冗談よ。でも……膝に話しかけられるのは、ちょっと疲れるわね」


 そう言いながら、彼女は巨大な右手をそっと伸ばす。

 指の長さ46センチ、手の幅約1メートル。人ひとりを優に抱えられるほどのサイズだ。


 リアーネは、カイの脇の下を軽く支えて持ち上げる。

 「……こっちの方が話しやすいわ」


 ふわりと宙に浮いたカイは思わず息をのむ。

 9メートルの目線まで上げられれば、月と夜風が一層肌に感じられるような気さえした。


 「……ねえ、カイ。今日の手合わせ、どうだった?」

 リアーネは穏やかな声で尋ねる。


 「うん。B級の人たち、連携も動きもすごかった。でも……」

 「でも?」

 「姉ちゃんには、まったく届かなかった。あれ見てて、レベルが違いすぎるって痛感した」


 リアーネはわずかに笑みを深める。

 「そっか……私の推定戦闘力、たぶんSランクのトップクラスくらいだと思うの」


 「……それ、言っちゃって大丈夫なの?」

 「いいの。あなただから」


 そう言って、リアーネは星々を映すように夜空を見上げた。

 ひんやりとした風が丘を撫で、金髪が月光の下できらりと揺れる。


 「最近、ゴブリンたちの動きがおかしいの。普通じゃない。

  早くも……街に直接攻めてくるかもしれない」


 カイがごくりと唾を飲む。

 「昔話じゃなくて……本当に……?」


 リアーネはゆっくりと頷いた。

 「……あの話が現実になるかもしれない。

  もしそうなったら、私たちは……別々に動くこともあるかもしれないの」


 その言葉に、カイは黙る。

 リアーネの瞳は金色の夜闇に溶け込みながら、静かに彼を見つめていた。

 どこか、言葉を探すように唇を震わせている。


 「……でも、その時は安心して。信頼できるギルドメンバーを紹介するし、私はちゃんとあなたを見てる。

  どこにいても、きっと支えてあげる」


 「……姉ちゃん」


 「あとは、ひとつお願い。今後の依頼報告は、あなたに任せたいの。

  私が行くと……建物が、もたないから」


 カイは思わず吹き出す。

 「はは……まぁ、そうだな。正直ギルドの扉もドアも姉ちゃんには狭すぎるから」


 リアーネは少し安堵したように微笑むと、カイをそっと草の上へ戻す。

 起き上がっていた巨体を再び横たえ、丘いっぱいに広がっていく。


 「おやすみなさい、カイ」


 「おやすみ、姉ちゃん」


 そのままリアーネは深い呼吸をつき、仰向けになって空を見つめる。

 木々さえ覆い尽くす巨体の輪郭を、月明かりがぼんやりと照らしていた。

挿絵(By みてみん)



 ――あまりにも大きな背中。それでいて、圧倒的な安心感もなぜか感じる。

 カイは静かにリアーネを見上げて、そっと目を閉じた。


 (いつか、この丘の夜空を、同じ高さで見られるだろうか)


 そう思いながら、カイは暗い闇に沈んでゆく。

 夜風がそよぎ、丘には静かなる影だけが横たわっていた。

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