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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
23/95

19 座して動かず

 街の広場に、大きな影が落ちていた。

 9メートルの身長を誇る女戦士・リアーネ。

 その肩幅は2.3メートル――ふつうの扉枠を並べても通れない広さ。

 太腿の幅は1.2メートルもあり、股下は4.8メートルに達する。

 膝の高さだけで2.6メートルを超え、街の一階建て屋根よりも高い。


 ――ここまで大きくなると、ただ座るだけでも人々の目を引いてしまう。

 リアーネ自身も、それを自覚しつつ、人気の少ない公園の芝生へと腰を下ろした。

 ミドルブーツの厚底(10センチ)が地面にめり込み、足首からくるぶしまでの高さは約50センチ。

 ほんの少し座っただけなのに、土がわずかにへこんだように見える。


 リアーネは小さく息をつく。

 「ふう……また少し、大きくなったわね。これじゃあ、下手に立ち上がれないかも……」


 すると、彼女を探していたカイが駆け寄ってきた。

 カイの目線の位置は、ちょうどブーツの丈の上あたり――2.6メートル。

 それでも首を反らさないと顔を見上げられないほどだ。


 「……なんだよ姉ちゃん、ブーツだけで俺の胸くらいあるじゃん。膝が俺の頭より圧倒的に上だぞ」

 カイは呆れたように笑うが、その瞳はもはや怯えではなく慣れと尊敬を含んだ光を帯びている。


 リアーネは、くすりと笑った。

 「カイ、縮んだ?」


 「俺が縮んだんじゃなくて、姉ちゃんがでかすぎるんだよ!」


 軽いやり取り。しかし“でかすぎる”という言葉には、もはや冗談では済まされない現実味が漂っていた。


 そんな二人を見つめていたのは、公園にいたB級冒険者のパーティー。

 全員で六人。筋骨隆々とした戦士や、俊敏な魔法剣士、狙撃手などの実力者ぞろいだ。

 彼らのリーダー格が声を張り上げる。


 「なあ、そこの巨人嬢ちゃん! 俺たちと手合わせしてみねぇか?」


 カイは思わず振り返る。

 「今のリアーネ姉相手に……正気か? B級とはいえ、どうにもならないぞ」


 リアーネは首をかしげた。

 「私、まだE級なんだけど……それでもいいの?」


 リーダーはニヤリと笑う。

 「階級なんざ気にしねえ。俺たちはその“規格外の体”がどんな戦い方をするか、見てみたいんだよ」


 (興味を持ってくれるのはいいけど、私が本気を出したら……)

 リアーネは一瞬、断ろうかと迷った。けれど、ここで拒めば彼らが納得しないのも事実だ。

 そこで考えた末、柔らかな口調で答える。


 「わかったわ。それなら……私はここから動かない。座ったまま、ほとんど何もしないから」


 冒険者たちがざわつく。

 「はあ? バカにしてんのか?」

 「動かずに受けきるつもりかよ……」


 けれどリアーネはにこやかに続ける。

 「あなたたちの動きを見たいの。カイ、勉強になるから見ておきなさい」


 戦闘開始の合図もないまま、B級の面々が散開する。

 狙撃手が矢を放ち、剣士が正面から斬りかかり、魔法剣士が風の刃を繰り出す。


 ――しかし、リアーネは微動だにしない。

 腕の長さ4.5メートル、指1本が46センチもあるその巨体をまったく動かさず、芝生に腰を下ろしたままだ。


 剣がブーツに当たる。カキィン!

 まるで分厚い金属を打ちつけたような音が響き、剣の方がひしゃげてしまう。

 遠方から射られた矢は、胸当てすら貫けずに落ちた。


 「……うそだろ、当たってるのに……」

 「全然効いてねぇ……!」


 カイは横で冒険者たちの動きを観察する。

 「連携はさすがB級……だけど、姉ちゃんに通用してない」


 ついに、魔法剣士の息が上がり、狙撃手の弓が折れ、戦士たちの腕が痺れはじめる。

 それでも誰ひとり引く様子はなく、攻撃を繰り返していた。


 リアーネは膝の上で組んでいた両手をほどき、穏やかに微笑む。

 「そろそろ……反撃してもいいかしら?」


 広場が、しんと静まりかえった。

 冒険者たちは肩で息をしながらも、なお武器を構えている。

 しかし、その目には焦りと戸惑いが浮かんでいた。


 リアーネがゆっくりと立ち上がる。

 股下4.8メートルの脚が伸び、巨大な上半身がゆっくりと起き上がっていく。

 太腿は1.2メートルもの幅を持ち、肩幅は2.3メートル――その姿は、街の小さな門を優に越える“壁”そのもの。


 冒険者たちは思わず一歩後ずさる。

 「なんだ……この感じ……」

 「さっきまでは座ってただけだったのに……」


 リアーネは微笑みを崩さぬまま、膝を折り、四つん這いの姿勢になった。

 すると地面がぎしり、と低く唸る。足だけで数トンの重量を支えるその質量が、ゆっくりと移動するのだ。


 「私は、まだ本気じゃないから。安心して」

 そう言いながら、リアーネの指がひとりの戦士に向かって伸びる。


 ――ごく軽く「ちょん」と触れた……はずだった。

 だが、幅12センチの指先が秘める重量は凄まじい。

 本人は羽をなでるような力加減のつもりでも、戦士にとっては**“鉄の丸太が弾き飛ばす”**ほどの衝撃になる。


 どさり。

 戦士は小さく浮き上がるように倒れ伏し、そのまま意識を失った。


 「……ひとり」

 リアーネが数を数えるように呟く。


 隣の魔法剣士にも、かるく指が触れる。

 ふわりと吹き飛ぶように、地面に倒れて気絶する。


 「ふたり……あれ? さんにん目だったかしら」


 わずかに数え間違えるそぶりを見せるリアーネ。

 その何気ない動作が、いよいよ“人間とは異なる存在”を際立たせる。


 冒険者たちは逃げようともせず、呆然と立ちすくむ。

 すでに「逃げても意味がない」と悟ったのだろう。


 「ごにん……」

 四つん這いのリアーネが、またひとり指で弾くたびに、誰かが沈黙する。

 最後のひとりまで倒し終えたところで、リアーネはそっと指先を持ち上げた。


 「……はい、ろくにんめ」


 公園には、砂埃と一陣の風が舞う。

 たった数秒で、B級冒険者たちが無力化されたのだ。


 リアーネは四つん這いのまま、少し首を巡らせてカイを見下ろす。

 「カイ、ちゃんと見てた?」


 カイはごくりと唾を飲み込みながら頷く。

 「……ああ、見てた。B級の連携だってすごいのに……なんか、圧倒的すぎて……」


 「ふふ、大丈夫。あなたなら、あの人たちの動きを学んで、いつか追い越せるわ」

 柔らかい笑みと、圧倒的な巨大さとのギャップが、むしろ恐ろしさを増幅させるようでもあった。


 ――その夜、カイは眠れなかった。

 リアーネ姉の強さは単なる「大きさ」ではなく、正確な力加減と優しさが混ざり合った“圧倒的な存在”だと痛感したから。

 気持ちだけでもリアーネ姉に並んで立てるだろうか――

 そう思いながら、カイは暗い夜空を見上げ続けた。

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