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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
21/95

18 影が落ちるとき (挿絵あり)

 朝。


 街の門前に、9メートルの女戦士――リアーネが立っていた。

 

 「目線を合わせるには、どうしてもこれくらいまで低くなるのね……」

 と、リアーネは両膝をつき、片手でそっと塀の角に触れた。

 だがそれでも、彼女の胸は塀の高さ(4メートル)を優に超えており、門番の目線の上には、なお彼女のベルトがあった。


 「え……そ、そんなに屈んでて、まだ……見上げる感じ……?」


 門番は、朝の挨拶をしようとして、完全に固まってしまった。


 リアーネは、優しい笑顔を崩さず、そっと言う。

 「ごめんなさい。今日はカイが風邪気味なの。街で休ませてるわ」


 「え……そう、なんですか……」


 「あの子のぶんまで、きっちり終わらせてくるわね」


 そして、塀の向こうへと手を差し入れた。

 幅12センチ、長さ46センチのその指が門番の腰にそっと触れ、次の瞬間には――


 「うわっ……」


 門番は、空中へと軽やかに持ち上げられていた。

 リアーネの手のひらは1メートル四方――門番の胴回りが、すっぽりと収まってしまう。


 「こうすれば、顔を見て話せるでしょう?」


 リアーネの眼前。門番は塀の上に立ち、彼女の目線の高さで、真正面から見下ろされた。


 風に金髪がなびく。その向こうにある、巨大で美しい双眸。


 「……で、でけぇ……いや、美し……いや、出発ですね。気をつけて!」


 「ありがとう。すぐ戻るわ」


 リアーネは門番をそっと地面に戻すと、立ち上がる。

 その動作だけで、地面がわずかに沈み、門柱がカタカタと揺れた。


 彼女が街を出るとき――人々は、特別な音を聞く。


 それは“歩く音”ではない。

 それは、大地が反応する音。


 リアーネの歩幅は4.5メートル以上。

 街道の敷石に足が触れるたび、わずかな震動が伝わる。


 門番は、彼女の背を見送る。


 長くしなやかな脚、柔らかな腰のライン、そして――あまりにも巨大で、凛とした美しさ。


 「……あれが人間かって思うくらい、美しい……」


 森を抜け、しばらく進んだ先。


 木々の影から、リアーネは一歩前へ出た。


 その瞬間――


 世界に、影が落ちた。


 朝日をさえぎるその影は、ゴブリンの集落全体を覆った。


 「ギャ……ギッ!?」「ヒィ――ッ!!」


 太陽の代わりに、巨大なシルエットが空を支配した。


 リアーネは静かに言う。


 「……まずは、力の調整からね」


 そして、一歩踏み出す。


 ズゥン……ッ。


 地面が低く鳴る。

 足幅50センチ、靴底の厚みは10センチ以上――リアーネの一歩は、地形に“圧”を刻む。


 集落は混乱する。

 ゴブリンたちは四方に逃げ出すが――


 リアーネは慌てない。走らない。跳ばない。


 ただ、歩く。


 1歩。2歩。

 そのたびに、木造の柵が振動で揺れ、倒れる。


 逃げ惑う1匹を、リアーネは指先でつまみ上げた。


 金属よりも硬い爪先が、空気を切る。

 掴んだその小さな身体を、目線の高さに持ち上げる。


 「……ごめんね。あなたで、試させてもらうわ」


 そして――握る。


 ベキュ。


 音が鳴る。柔らかな抵抗が指の中で砕け、赤い飛沫がこぼれる。


 リアーネの表情は変わらない。

 ただ、ほんの少しだけ、眉を寄せた。


 「……潰れちゃった。強すぎたわね」


 次は、やや力を抜いて。


 ギュッ、と皮膚が沈む感触――

 ゴブリンの目が白く反転し、ぐったりと力を失う。


 「……これくらい?」


 リアーネは、何度も試しながら、指の感覚で力を微調整していく。


 つまむ。握る。落とす。


 つまむ。押さえる。倒す。


 ただ、それだけ。


 その様子は、まるで――


 “花を摘むような静けさ”だった。


 やがて、集落に残ったのは、逃げ遅れた数体だけ。


 リアーネはさらに歩を進める。


 その一歩は、ゴブリンの十歩。


 どれだけ必死に逃げても――歩くだけで、追いついてしまう。


 「もう終わりよ。次は、あなた」


 逃げる背中に手を伸ばし、つまみ上げる。

 その指が動いた瞬間、逃走の意志は消えた。


 ――絶望とは、こういう姿をしているのかもしれない。


 その日、集落は“静かに”消えた。


 叫びも、反撃もなかった。

 戦いではなかった。処理だった。


 ただ一人の女戦士が、

 街の安全のために、“整地”しただけだった。


 帰路。


 リアーネは、草の上に膝をつく。

 戦闘の跡を丁寧に確認し、指についた泥を拭いながらつぶやいた。


 「……少しずつ、分かってきたわ。どこまでなら……壊さずに済むか」


 風が草を揺らす。太陽は再び、彼女の影を地面に伸ばす。


 「私は、もっと上手に守れるようになる。……きっと」


 巨大なその背中が、またゆっくりと、街へ向かって歩き出した。

雰囲気

挿絵(By みてみん)

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