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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
20/95

17 壁を超えて、影を落とす

 夜が明けた。


 ギルドのホールには、不自然な静寂が漂っている。

 石造りの床、崩れかけた柱、そして――その奥に身長9メートルの女戦士が横たわっていた。


 リアーネ。

 昨日、ギルド内で突如成長し、ついに天井に届きそうなほど大きくなった。

 しかし彼女の体は、そのまま外へ出られる状態ではなく、やむを得ずホールの端に身を丸めて朝を迎えたのだ。


 朝日が吹き抜け構造の上部窓から差し込み、巨体を照らす。


 体重は10トンを超え、体の各所がすでに街の建物サイズを凌駕している。

 肩幅は2.3メートル――扉枠を並べても通れない広さ。

 腕は4.5メートルの長さがあり、人間の前腕のように扱える“指”も、その1本1本が46センチ近くある。

 太腿の幅は1.2メートル、股下は4.8メートル。膝の位置だけで2.6メートルに達し、街の1階建て屋根より高い。


 横たわったままでも、ホールの半分を埋め尽くしていた。


 リアーネは目を開き、ゆっくりと上半身を起こす。

 それだけで床がわずかにきしみ、柱が軽く軋んだ。


 「……おはよう、カイ」


 傍で毛布をかぶって寝ていたカイが、半ば飛び起きるように目を覚ました。


 「ああ……おはよう。どう、加減は……?」


 リアーネは静かに首を振る。

 夜の間に追加の成長はなかったようだ。

 だが、このままでは、外に出るのも一苦労だろうと、ふたりの目は物語っていた。


 ギルドの受付では、朝一番の手続きが始まっていた。


 受付嬢は、崩れかけた壁と折れた家具を見て、溜め息をこぼす。

 夜中に少しずつ補修しようとしたが、全く追いつかない。

 とはいえ、リアーネ本人に悪意がないのは分かっているからこそ、苦笑しかできないのだ。


 「お二人、今日の任務が入っておりますね。リアーネさんは……」


 受付嬢レナが視線を上げる。

 そこには巨体を少しでも縮めようと、ホールの隅で膝を抱えたリアーネの姿があった。


 「ええ、初回のゴブリン集落の再討伐。殲滅依頼ですね」

 カイが淡々と書類を受け取りながら、横目でリアーネを見やる。


 「……外に出られるのかな」


 その問いに、リアーネは大きく息をついた。

 9メートルもの身体で、肩幅は2.3メートル――一度ギルドの床に横たわれば、出入口を通り抜けるのは至難だ。


 「……行くしかないわね。壊さないように、できるだけ気をつけるけど……ごめんなさい」


 ホール内の冒険者たちが固唾を飲む。


 リアーネが壁際に手をつき、体をゆっくり起こした。

 ブーツの足先(1.4メートル)を慎重に動かし、少しずつ正面扉へ近づく。

 けれど、出口は高さ5メートル程度――彼女の胸元あたりしかない。


 「……よいしょ」


 誰の耳にも軽い掛け声に聞こえるが、床と梁が即座に悲鳴を上げた。


 ゴウン……バキィ……!


 「ひっ……!」


 冒険者が思わず悲鳴を漏らす。

 リアーネは肩をすぼめ、上体を斜めに倒しながら、なんとか扉の枠をくぐり抜けようとする。

 しかし2.3メートルの肩幅は、壁や柱を押し広げ、掲示板をひしゃげさせた。


 「……すみません、本当に」


 謝罪を言いながら、彼女は身体を滑らせるように前へ進む。

 無理に力を入れたわけでもなく、ただ“そこを通る”だけ――それなのに石と木の折れる音が止まらない。


 ようやく彼女の上半身が外へ抜けたところで、

 思わずギルド内部の全員がホッと息をつく。

 だがまだ、腰や脚が残っている。


 「あと少し……!」


 カイが小声で声援を送る。


 ゴギッ……メキッ……


 最後に梁が一つ、派手に歪んだ音を立てた。


 次の瞬間――リアーネはようやく、外に姿を現した。

 彼女が向き直って軽く頭を下げると、ホール内にいる者たちのランプが揺れ、空気が一瞬凍りつく。


 「……お騒がせしました」


 そう言い残して、リアーネは何事もなかったかのように歩き出す。


 ギルドの建物から続く石畳を進むたび、足元(1.4メートルの靴先)が街路に微かな振動を与える。

 人々が目を丸くし、通りの片隅へと身を寄せる。

 彼女は申し訳なさそうに微笑むが、すれ違うことすらままならない。


 やがて街の正門が見えてきた。


 門の高さは3.5メートル、塀の高さは4メートル。

 膝の位置が2.6メートルもある彼女にとって、門は**“腰より下”**どころか“股下にも届かない”程の高さ。


 リアーネは、門の前で立ち止まる。

 門番が思わず見上げると、金髪が空に揺れていた。


 「……跨いでもいいかしら? 壊さないように、気をつけるから」


 門番は呆然としつつも、首を縦に振る。


 「い、いいとも……ッ! 壊れないように……いや、壊しても仕方ないか……」


 内心でため息をつきながらも、声には出さない。

 目の前には1.4メートルの足先、太腿幅1.2メートルの巨大な脚。どうしようもない。


 リアーネは膝を軽く曲げ、1歩ずつまたいで門の外へと抜け出す。

 その度に地面がわずかに揺れ、塀がギシッと音を立てるが、倒壊までは至らない。


 門番は、自分が肩で息をしていることに気づく。


 「……あれで“そっと”か。 本気で踏まれたら、ひとたまりもないな……」


 街の外。


 リアーネは丘の上で、朝日を浴びていた。

 金髪が風に遊ばれ、腰に手を当てると――その姿は、まるで小さな城壁を超える“歩く要塞”のように映る。


 9メートルの高さから見下ろす街並みは、すでに“彼女の体の一部”よりも低い位置にあった。


 「よし、それじゃあ……行ってくるよ」


 カイがギルドの方を振り返り、受付嬢に書類を渡す。


 「気をつけて」


 受付嬢は、崩れた出入口や壁を横目に見ながら、苦笑まじりにそう告げた。


 リアーネは街を振り返った後、ゆっくりと外へと歩みを進める。


 大きすぎる背中が、朝の光を受けて巨大な影を落としながら、

 “街の中”ではなく“外側”に生きる存在として、その第一歩を踏み出した。


 膝や腰の高さより低い建物群が、後ろに遠ざかっていく。


 風がさらりと吹き抜け、10トンの体を揺らしてもびくともしない。

 けれど彼女は、細心の注意を払いながら、一歩ずつ地面を踏みしめるのだった。

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