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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
19/95

16 成長する影、軋む天井 (挿絵あり)

 ギルドの重厚な扉が、**ギィイ……ギギ……**と、ゆっくりと開いた。


 人々の会話が途切れる。その理由はすぐに分かる。

 リアーネが入ってきたからだ。


 高さおよそ10メートルほどの吹き抜け構造をもつホール――2階部分の床は4メートル付近にあり、そこからさらに6メートルほど天井が伸びている。

 初見の冒険者なら「十分広い」と感じる巨大な空間だろう。

 けれど、身長7メートルになったリアーネにとっては、もはや余裕のある空間ではなかった。


 彼女の肩幅は175センチ、腕の長さは3メートル近い。

 金髪が太陽のように揺れ、床の石を柔らかく踏みしめながら、ホールの中央へとゆったり歩みを進める。


 周囲の冒険者たちは、その巨大さに圧倒されつつも慣れつつあった――はずだった。


 だが――彼女が完全に足を止めた瞬間、床が微かにきしんだ。


 「……?」


 誰かが疑問の声を漏らす。

 そのとき、リアーネの足元から、じわりという音が聞こえてきた。


 ズ……ズズ……。


 「ギ、ギルドの床が……?」


 冒険者たちは一斉に視線を落とし、そして、リアーネの身体へと目を戻した。


 彼女の身体が――さらに大きくなっていた。


7メートル10。

肩幅が180センチに近づく。足のサイズは100センチを超え、金髪の先端がわずかに2階床の縁へ近づく。

けれどリアーネは、まるで自然な呼吸をするように、ただそこに立ち続けていた。


 「……成長、してる……!」


 誰かの声が、ホール全体にこだまする。

 途端に空気が張り詰め、ホールの奥で誰かが椅子を倒す音が響いた。


7メートル30。

リアーネがゆっくりと息を吸う。

その胸の上下だけでも、人間からすれば大きく見えるが、今は**“それ以上”**に全身が拡張している。


 「まずい……! このままだと――」


 冒険者の一人が後ずさる。

 2階の手すりに寄りかかって様子を見ていた仲間も、思わず下を覗き込む。


 その視界に収まったのは、人の形を保ったまま拡大を続ける“何か”。


7メートル50。

**ギシッ……ギギギ……**と、天井の梁がわずかに振動する。

リアーネの頭が、2階のランプの高さを捉え始める。

周囲の冒険者たちが、何も言えずに見上げる中――


 リアーネは静かに笑っていた。


7メートル70。

脚の筋肉がさらに強調され、ひときわ雄大な曲線を描く。

腕の長さは3.5メートルを超え、2階の欄干から手を伸ばせば容易に触れられるほど。


 「誰か、止めろ! ギルドが壊れるぞ……!」


 声が上がるが、どうやって止めればいいのか、誰も分からない。

 彼女の成長は――彼女自身ですら制御できないものだった。


8メートル。

床がさらにきしむ。

天井に取り付けられたランプが揺れ、鎖がチリチリと音を立てる。

3階分の高さはなくとも、吹き抜け最上部は10メートルに満たない。もう余裕はほとんどない。


 ギルドの受付嬢が、震えながら顔を上げた。

 かつては見上げるだけでも圧迫感があったのに、今はもう、恐怖に近い。


8メートル20。

壁の一部が軽く軋んだ。

少しでも動けば、どこかを壊してしまいそうだ――そんな緊張が、ホール全体を覆う。


 「……なんで、笑ってるんだ……あんなに大きくなってるのに……」


 後ずさる冒険者の呟きに、カイが小さく答えた。


 「……怖いんだよ。きっと、自分でも。

  本気で怒った顔を見せたら、誰だって壊れちまうと思ってるから……笑ってるんだ」


 カイの声には、リアーネへの理解と、ほんの少しの哀しみが混じっていた。


8メートル40。

リアーネの頭が、ついに天井に取り付けられたランプを見下ろす。

そのまま彼女は、顔を上げて天井を見つめた。


 梁がミシッときしむ。

 ランプが彼女の髪先をかすめる。

 もう少しで、頭が天井に触れる――


 それでも、リアーネは動かない。

 微かな笑みを保ったまま、ただ黙って成長の終わりを待っていた。


8メートル60。

ホールの誰もが息を飲む。

轟音もなく、爆発もなく、ただ静かに――ひたすらに圧迫感だけが膨張していく。


8メートル80。

天井のランプが**ギギ……**と鎖を軋ませる。

彼女の頭上まで、手のひら一枚ぶんほどしか空きがない。


 「……もうやめてくれ……ギルドが……!」


 叫びは、もう届かない。

 リアーネは微かに目を閉じ、まるで祈りのように微笑むだけ。


9メートル。

成長が止まった。


 その瞬間、ホールは深い沈黙に包まれる。

 驚きも、悲鳴も、呆れも、すべて消え去った。

 ただ「圧倒された」という心しか、そこには残っていない。


 天井まで、わずか数十センチ。

 もし彼女が小さく伸びをしたなら、梁を壊していたかもしれない。


 誰かがつぶやいた。


 「……化け物、だ」


 けれど、その声ですらリアーネの足元までは届かない。

 あまりにも高く、あまりにも巨大で、あまりにも――静かだから。


 リアーネはゆっくりと、微笑を収めた。


 「……これが、止まったみたい」


 声は大きいが、決して耳をつんざくものではない。

 けれど、その深い響きに、ホール全体が身を竦める。


 カイが、息を詰めながら彼女を見上げる。


 「ああ、止まった……ね」


 リアーネは、そっと視線を下ろした。


 ギルドの床に亀裂が走り、壁の一部にはひびが入っている。

 椅子が数脚、倒れて転がっていた。

 そして、人々は皆、遠巻きに彼女を眺めていた。


 「……少しだけ、視界が変わったわ」


 その言葉に、誰も答えられない。

 誰も“何を変えた”のか分からない――だが、確かに世界は変わってしまった。


次回へ続く。

新たな大きさを得たリアーネは、この先どんな風景を見下ろすのか。

ギルドの者たちは、この巨体をどう受け入れるのか。

静かな戦慄が、物語の幕をまた一つ深く裂いていく。



成長後の比較図

挿絵(By みてみん)

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