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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
18/95

15 静かな足音、確かな成長 (挿絵あり)

 朝の陽射しが川面に差し込み、水面が金色に揺れていた。


 その傍らで、身長7メートルの女戦士――リアーネが、静かに服を洗っていた。


 ミッドリフジャケットを両手で摘み上げると、それだけで彼女の腕の筋がしなやかに浮かぶ。

 洗い上げられた生地は、街の子どもなら二人隠れられるほどの布。

 スポーツブラとハーフパンツも、慎重に川の水で濯がれ、岩の上に広げられた。


 川の流れは、まるで彼女の洗濯を邪魔しないように、洗い物を避けてたゆたうようだった。


 リアーネは無言のまま、最後の泥を落とすと、太陽に向けて衣服をかざす。

 ――焦げた匂いも、土のざらつきも、ようやく消えていた。


 街に戻る道すがら、リアーネは相変わらず静かだった。


 だが、街の人々の視線は、以前にも増して鋭くなっていた。

 前日に、煤と泥にまみれたままギルドへ現れたその姿が、記憶に焼き付いていたのだ。


 小声で囁き合う声が、背後から漏れる。


 「あれが……噂の……」

 「ゴブリンを、一撃で……」


 リアーネは、ただ黙って歩いた。

 ブーツの歩幅を極限まで小さく保ち、人のいない路地や広い道を選びながら。

 それでも、その一歩ごとに微かな揺れが街路に伝わる。


 ――けれど、街の門番たちは違った。


 「よう! 今日もでけぇな!」

 「なあ、あんたに倉庫の荷物、全部運んでもらえたら助かるんだけど?」


 冗談交じりの言葉が、空気を少しだけ軽くする。


 リアーネは、わずかに眉を和らげて、軽く会釈した。


 ギルドホールの扉を開けると、視線が集まるのを感じた。


 リアーネはまっすぐ進み、天井が最も高い床の一角――自分の“定位置”へ向かう。

 そこに静かに座ると、ホールの空気が落ち着いたようにも感じられた。


 受付でカイが依頼票を受け取る。


 「本日の任務は、“荷物の運搬”です。街から別の拠点まで、物資の輸送をお願いします」


 受付嬢は言い添えるように続けた。


 「本来なら三人分の仕事です。でも、お二人なら、いえ……リアーネさんなら」


 ちら、と視線がリアーネの肩へと向かう。


 リアーネは、無言で一度頷いた。


 搬出口には、荷が山のように積まれていた。


 木材の束、食糧袋、鉄材入りの箱――人間なら一日がかりの作業量だ。


 リアーネは一つ一つをじっと見つめたのち、鉄の箱を3つ片手でまとめて持ち上げる。

 取っ手がギシリと鳴るが、指先に重みは伝わらない。

 反対の手には木材の束10組。肩には、食糧袋を十数個積み重ねる。


 「……ま、待って! それ全部、一人で!?」


 ギルド員が思わず叫ぶ。


 カイは苦笑しながら補足した。


 「空間収納でも運べなくはないんですよ。ただちょい時間がかかる。

  結局、リアーネ姉がそのまま全部持っていくほうが早い。……まるで倉庫が歩いてるみたいで」


 リアーネが歩くたび、微かに地面が揺れた。

 だが、その足音はほとんど音を立てない。


 その静けさが、かえって異様だった。


 鳥が驚いて飛び立ち、犬が吠えた。だが、リアーネは顔色ひとつ変えずに進む。

 道をそれ、人のいない裏通りを選びながら、ひたすらに――。


 道中、カイが肩に担いだ箱をひとつ落としそうになった。


 「うっ――」


 次の瞬間、リアーネの小指がそっと差し出され、箱を支える。

 空気のように、何もなかったかのように、荷が元の位置に戻った。


 「……ありがとう」

 「どういたしまして」


 任務先に到着したとき、出迎えた担当者は声を失っていた。


 「あ、あの量を……一人で……?」


 リアーネは首をかしげる。


 「運ぶのに、理由はいらないでしょう?」


 その一言に、場の空気が変わった。


 ギルドへ戻った頃には、空は夕焼けに染まっていた。


 カイが報告を終えると、受付嬢が静かに頷く。


 「今回の依頼は軽めではありましたが、前回の討伐実績を踏まえ――お二人は正式に、Eランクへと昇格とさせていただきます」


 その言葉に、リアーネはほんの少し微笑んだ。


 「ありがとう。……少しは、信用されたかしら」


 受付嬢もまた、小さく、けれど確かに笑ってうなずいた。


 その夜、街の郊外。


 リアーネはひとり、草地に座って空を見上げていた。


 彼女の手には、“Eランクの証”となる金属製の札。

 指二本で摘むだけで隠れてしまうほどの、豆粒にも満たない小さな金属片だった。


 「……次も、進めるわね」


 そう呟いて、一度札を握りしめる。

 けれど、その成長がどこまで届くのか――それは、彼女にもまだ見えていなかった。


 ゴブリンの襲撃は、日を追うごとに増えている。

 滅んだ村は、彼女たちが見ただけでも数多い。

 辺境の警備は穴だらけで、ギルドに寄せられる依頼すら処理しきれない状態だ。


 辺境伯の軍も、守りたい城壁と村を天秤にかけて、手が回らないのが現実。

 中央からの支援はほとんどなく、

 「これが援軍です」と言われて送られてきたのは、冒険者が数人程度という笑えない話。


 「……皆、間に合っていないのよ。

  わかっていながら、口に出す余裕すらないくらいに」


 星を見上げながら、リアーネは小さく吐息をついた。


 「私がこの手で運ぶ荷物なんて、ほんの一握り。

  でも――それで一つの村が延命できるなら、それでいいのよ」


 胸の奥で、何かが微かに鼓動する。


 遠くから呼ばれているのか、それとも自分の内側から湧き上がるものか――

 はっきりとは分からない。

 ただ、その存在だけが、確かにそこにあることを感じる。


 リアーネはそっと草の上に横になった。

 大きな体が寝転ぶだけで、柔らかな草地の半分を包み込む。


 星の光が、静かに彼女の金髪を照らしていた。



カイさんを運ぶとこんなイメージ

挿絵(By みてみん)

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