表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
16/95

13 焦土の村と黒き穴

 焦げた木の匂いが、風に乗って鼻をつく。


 辺境の村――名も記録も消えかけた小さな集落の跡地に、リアーネとカイは立っていた。


 焼け落ちた家々。崩れた柵。ところどころに散らばる、鉄器や食器の残骸。

 土の上には、誰かが足早に逃げようとした跡が、黒ずんだ血とともに残されていた。


 この村は、ゴブリンに襲われ、完全に滅ぼされた。


 そして今、ふたりの任務は――この村で何が起きたのかを**“調べること”**だった。


 リアーネは村の外れ、小高い岩の上に腰を下ろしていた。


 その岩は人間であれば三人がかりで登るほどの高さがあるが、リアーネにとっては、腰かけてちょうど地平が見渡せるほどの“ちょっとした腰掛け”だった。


 身長7メートル。肩幅は路地を塞ぎ、太腿の幅だけで子どもなら5人並べる。

 金髪が風に揺れ、その大きな瞳は、村全体を――いや、その先の森や丘までも視野に収めていた。


 「……この村、燃やされた家が多いわね。でも、被害に偏りがある」


 リアーネの声は風に割り込むようにして、遥か下方にいるカイへと届く。


 彼女の指が動く。人間の胴ほどもある指先が、焼け落ちた家々の“分布”を空中に描くように動いた。

 焼失した建物の向き、焼け残った構造、すべてを脳内で地図化しながら。


 「南西側の3棟は完全に灰。けれど、北側の家々は骨組みだけ残ってる。襲撃の進行方向は……西ね」


 それは、地面を這う目線では決して得られない情報だった。


 一方、カイは倒壊しかけた家屋の中を慎重に進んでいた。


 剣を抜き、足元を確認しながら、壁の割れ目や床下に目を凝らす。


 ある家の裏で、彼は微かな土の崩れに気づく。土の色が違う。雨に濡れていないのに、そこだけわずかに沈んでいた。


 「……これは、地下が空洞になってる?」


 カイが膝をつき、慎重に土を払うと、そこには**木で塞がれた“蓋”**があった。

 腐りかけた板の隙間から、ほんのりと湿った風が吹き上がる。


 「リアーネ! 怪しいの、見つけた!」


 数秒後。地鳴りのような足音が近づいてくる。


 ズゥン……ズン……

 焼け焦げた地面に、そのブーツの先が立つたび、薄く積もった灰が舞い上がる。

 ミドルブーツの靴底が、子どもの頭ほどある石を押し潰しながら、カイの前に現れる。


 リアーネはしゃがみこみ、目線を蓋の位置へと落とした。


 「……空気が下から流れてきてる。風向きも一定。……何か、あるわね」


 リアーネの指が蓋の縁に添えられる。

 そして、まるで本のページをめくるように、片手でそれを持ち上げた。木片が舞い、湿った風が流れ出す。


 地下へと続く、階段状の通路が現れた。


 中は暗く、粘つくような水音や、何かが擦れる気配が漂っている。


 リアーネは階段を覗き込み、背後のカイに言った。


 「これは、地下の巣穴……ダンジョンの構造ね。ゴブリンの集落が、地下にある可能性が高いわ」  「……やっぱり、そうか」


 カイは剣の柄を握り直す。戦闘の気配が、肌に刺さるように感じられた。


 「入るのは俺が先だ。お前は入り口で待っててくれ」  「ふふ、言うようになったわね。でも、無茶はしないで。あなたが声を上げたら、私はすぐに入るから」


 リアーネは片膝をつき、慎重に指でカイを持ち上げると、自分の顔と目線を合わせた。

 その目に、彼の覚悟を読み取った彼女は、黙って頷いた。


 カイが階段に足をかけたとき、リアーネは一度だけ、村全体を見下ろすように振り返った。


 「……何か、おかしい」


 彼女はそう呟いた。けれど、その“違和感”の正体は、まだ掴めていなかった。


 カイが地下へと消えてから、数分も経たないうちに、叫び声が響いた。


 「リアーネッ!!」


 瞬間、地上にいたリアーネの表情が変わった。


 次の瞬間、彼女の巨体が大岩の上から跳ねるように地を蹴った。

 **ズウゥン!**と地面が揺れ、焼け焦げた地に土煙が巻き上がる。


 駆け寄った先にある“地下口”は、1メートル四方の木枠のような狭さ。カイですら屈んで入った穴だ。


 ――だが、リアーネは迷わなかった。


 「私のカイが、中で死にそうになってるのよ」


 彼女は地面に膝をつくと、拳を握り――


 「悪いけど、壊すわ」


 その拳が地面を打ち抜いた。

 **ズガァン!**と響く音とともに、地面ごと数メートルが崩落し、地下通路の天井が露出する。


 リアーネは、地割れに体を横たえ、滑り込むように自らを押し込んだ。


 肩幅が土壁をこすり、腰が途中で引っかかる。

 つま先が壁を砕き、ブーツが通路を押し広げる。

 しかし彼女は、顔をしかめることもなく、まるで“自身を道具のように使う”かのような精密さで体を潜り込ませていった。


 地下広間。


 シャーマンの杖が再び呪文を唱えようと振り上げられた、その瞬間――


 ドゴォン!


 壁が崩れ、巨大な手が暗闇から突き出された。


 その手は、人間の胴体よりも太く、指先には鋼のような爪が輝く。


 「ヒィ……ッ!?」


 シャーマンの腕が掴まれる。

 だが次の瞬間、リアーネは呟いた。


 「生きたまま、話してもらうわ。少しは情報、持ってるでしょ」


 その手は、杖だけをバキィッと粉砕し、シャーマンの体ごと壁に叩きつける代わりに、地面に転がした。


 リアーネの上半身と片腕だけで、広間はほぼ制圧された。


 「私の仲間に、手を出した報いよ」


 その声は低く、冷たく、怒りと理性の狭間で震えていた。


 ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、カイは壁際で倒れていた。


 リアーネは、そっと手を差し伸べ、彼の体を“つまみ上げる”のではなく、

 大切な器を扱うように、掌で包み込んで抱き上げた。


 「……無事でよかった」  「いや、ギリギリだった……ほんと、助かった……」


 その声に、悔しさと感謝が滲んでいた。


 地上に戻る頃には、空には星が出ていた。


 リアーネの服は土埃で汚れ、髪には小石が絡んでいたが、彼女は気にしていなかった。


 隣にカイがいる――それだけで、十分だった。


 「次は、もう少し早く呼んでくれていいのよ」  「いや、次は……呼ばなくて済むように頑張るよ」


 リアーネは、口元に静かな微笑を浮かべた。

 その笑みの奥に、まだ拭えない“違和感”の影を残しながら――。


 風が二人の間をすり抜け、静かな夜が、焦土の村に降り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ