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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
1章 冒険のはじまり
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10 二人で進む、もう一歩

 ギルドから出て少し離れた、石畳の静かな広場。

 朝の光が差し込む中、リアーネは屈まずとも頭が届いてしまうほどの街灯のそばに立っていた。


 カイは、石段に腰を下ろして、彼女を見上げていた。


 「あの空気の中で、堂々と立ってたの、すごかったな」


 リアーネは、軽く息を吐くと、首を傾けた。


 「堂々というか……必要な“立ち方”をしただけ」

 その声は静かだったが、揺るがない芯を感じさせた。誰よりも広く高く見えていた者の視点だった。


 「ただ、書類は吹き飛んでたし――怖がらせてしまったわね…」


 リアーネは、ちらりとギルドの建物を振り返った。

 扉は歪んで軋み、壁の一部はうっすらとヒビが走っていた。


 リアーネは大きな手を伸ばし、カイの頭にぽんと置いた。

 それは、まるで空から大きな葉が降ってきたような、やさしい重みだった。



---


 二人は歩き出した。次なる依頼――Fランク級のゴブリン集落への道を進む。


 リアーネは、かなり手加減をしてゆっくり歩いていた。草むらを踏まず、枝を避け、鳥の巣さえも壊さないように、細やかな配慮を重ねる。それでもカイは、彼女と共に行くにはには小走りを余儀なくされるのだ。


 そしてふと、彼女は言った。


 「……私、かなり強くなったわ」


 「は?」


 カイは振り返った。リアーネは、真面目な顔でうなずいた。


 「身長だけじゃない。物理的に言えば、7メートルの私は、6メートルだった頃の私よりおよそ1.5倍の質量を持ってる。筋力も反応速度も、それに応じて向上してるわ」


 「それ……つまり、あの時以上に、本気出したら……」

 「たぶん、小さな山くらいは削れると思う」


 あまりにさらりと言うので、カイは吹き出してしまった。


 「それ、あんまり言わない方がいいやつだよ!」

 「わかってる。でも、あなたの前では言っておきたいの」


 リアーネの目は、優しさと、ほんの少しの孤独を湛えていた。


 「まだSランクの人には会っていないけど――

 さっきギルド内にいた人たちなら、全員かかってきても……たぶん、楽勝ね」


 「またそういうことサラッと言うよな、ほんと」

 カイは肩をすくめたが、口元は笑っていた。

 「……まあ、おかげで俺は思いきり動けるけど」


---


 Fランク相当のゴブリン集落は、川沿いの崖下にあった。

 斥候情報では、10体以上の個体と、大型のリーダー種がいるという。


 カイは深呼吸をして、剣を構えた。

 リアーネは崖の上、身を屈めて見下ろす位置にいた。


 「あなたが動く間は、私は動かないわ。……けれど、見ている」


 それだけ言って、彼女は岩陰にしゃがみ込んだ。巨大な影が、崖の縁からゆっくりと退いていく。



---


 戦いは、想像以上に激しかった。


 カイは序盤、鋭く攻めた。リアーネの爪から作られた剣は、相手の武器を難なく弾き、肉を裂いた。


 ゴブリンの群れが怒号とともに押し寄せる。カイは岩を背にして防ぎ、1体、また1体と倒していく。


 だが、リーダー格のゴブリンは違った。

 人間の背丈を越すその個体は、鉄の棍棒を振り回し、動きも素早い。


 「っ、こいつ……!」


 重い一撃がカイの脇腹を掠め、彼は地面に転がった。


 その瞬間、上空から気配が走る。

 風が、枝葉を撫でた。


 ズゥン……


 足音ひとつで、森がたわむ。


 リアーネが、崖から飛び降りたのだ。


 「やめなさい」


 その声は低く、だがはっきりと森に響いた。

 次の瞬間、彼女の右足が、地面に触れる。


 バシュゥッ!


 空気が爆ぜ、衝撃波が地を這った。草がなぎ倒され、ゴブリンたちは吹き飛ぶ。


 リーダー格の個体が慌てて後退しようとしたが――遅い。


 リアーネの手が伸びる。

 その指先が軽く肩に触れた瞬間、ゴブリンの身体は地面にめり込んだ。


 「あっ……」


 カイが呟く。

 ただの“指先”。それだけで、相手の戦意が消し飛んでいた。



---


 戦いのあと、カイはリアーネの手を借りて立ち上がった。


 「……ありがとう。ギリギリだった」

 「あなたはよくやったわ。あの数を、一人で抑え込んだのよ」


 リアーネは微笑むと、カイの肩にそっと手を置いた。

 その手のひらは、彼の肩幅よりもずっと広かった。


 「次は、もっと早く動かずに済むようにして。あなたがやれる限り、私は“動かずに済ませたい”の」


 それが、リアーネなりの“信頼”の証だった。



---


 そして、二人はまた歩き出す。


 リアーネの影は長く、カイはその隣を、少しだけ胸を張って歩いていた。


 どこまでも続く道の中で――

 その背と、その刃は、確かに育ち続けている。

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