9 見下ろす視線と断る報酬
静寂のギルドホールの中――リアーネは、静かに立っていた。
成長が止まり、彼女の新たな身体は、かつてよりもさらに際立っていた。
身長7メートル。股下は3メートル70、肩幅は1メートル75、足の長さは1メートルを超え、頭部だけでも80センチを超える大きさ。
その姿は、もはや“人間の枠”に収まらない存在感を放っていた。
ただ立っているだけで、周囲の空気が張り詰め、誰もが息を呑んでいる。まるで神殿に現れた偶像のように、巨大で、静謐で、美しかった。
彼女のブーツのつま先が、ホールの床にしっかりと接地している。その一歩先、そこにいたはずの冒険者たちは、全員離れた。
誰もがリアーネの姿を直視できなかった。見上げるには、首が痛くなるほどの高さ。目を合わせるには、あまりにも近づくには勇気がいる。
リアーネはその空気を、鋭く、しかし静かに読み取っていた。
自分の成長が、喜ばれるものではなかったことも。
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受付嬢が、恐る恐る声をかけた。
「え、ええと……本日分の討伐報酬ですが……」
彼女は小さな封筒を差し出す。その手は、ほんのわずかに震えていた。
リアーネはしゃがむでもなく、受け取るでもなく、ただ微笑んで言った。
「今回の報酬、受け取らないわ。……騒がしくしてしまったもの。お詫びよ」
その場が、再び静まり返った。
受付嬢が言葉を失う中、周囲の冒険者たちがざわめき始める。
「断ったぞ……」
「Gランクが……いや、あのサイズでGなんだよな、そもそも……」
「本当に、人間……なのか……?」
その声が、リアーネの耳に届いていないはずはない。
けれど彼女は、何も言わなかった。大きな碧の瞳だけが、まっすぐ前を見据えていた。
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その横で、カイが口を開いた。
「新しい依頼をお願いしたい。Fランクに昇格できそうな、次の討伐。俺たち、やれます」
その声は、空気を割った。リアーネが何も言わない代わりに、カイが話す。
そのやり方は、もうギルド内でも「自然」となりつつあった。
受付嬢は、表情を切り替えて応えた。
「……ええ。実績としては十分。次の討伐対象は、やや大きめの集落。Fランクの認定候補です」
カイがうなずくと、周囲からまた声が上がる。
「まじであいつら……Fに行くのかよ」
「いや、あの巨人女がいれば当然だろ。むしろ遅いくらいだ」
「でも、さっきの報告だと本人が攻撃してないんだろ? 戦ってんのは男の方がメインだって話だぞ」
その言葉に、リアーネはかすかに反応した。
ほんの一瞬、口元が緩む。
「そうよ。戦ってるのは、彼」
そのひとことに、驚いたのはギルド内の者たちだけではなかった。
カイも少しだけ面食らったように、彼女を見上げた。
リアーネは続けた。
「私は、彼の背を守っているだけ。あの子は、これからもっと強くなるわ」
それは、誇らしさとも、信頼ともつかない、確固たる確信だった。
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報告と受付を終えた後も、リアーネはすぐには立ち去らなかった。
いや、立ち去れなかった。
――彼女が動くたびに、ギルド全体が反応するからだ。
ほんの一歩、体重移動するだけで、床が**ぎしっ**と鳴る。
手を振るだけで、周囲の書類が風を受けてふわりと揺れる。
冒険者たちは、静かに道を空けた。
誰もが、彼女に道を譲る。誰も、声をかけようとはしなかった。
リアーネは歩きながら、天井に手をぶつけないように頭を傾けていた。
ギルドの入り口の高さは5メートル。今の彼女の身長では、完全に屈まなければ出られない。
膝を折り、腰を低くし、慎重にその門をくぐる。
ゴウン……という重い音が、ドアの蝶番から響いた。
その音を背に、リアーネは外の陽光の中へと消えていった。
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外に出ると、カイが待っていた。彼は石の段差に腰かけながら、ギルドの扉を見ていたのだ。
リアーネが出てくると、彼は自然に立ち上がった。
「ギルドの中、結構静かだったな」
「私がいると、ね」
リアーネは肩をすくめて微笑んだ。
「……でも、それでもいいの。あなたがちゃんと進めるなら」
「もちろん。次も絶対、やってみせる」
二人は並んで歩き始めた。
ひとりは、誰よりも巨大で、静かな戦士。
ひとりは、誰よりもまっすぐな意志を持った少年。
Fランク昇格をかけた戦いが、今始まろうとしていた。
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リアーネさん巨大化後
肩幅:約1.8メートル / 腕の長さ:約3.5メートル / 指幅:9cm / 指長:36cm
胸囲:約3.5メートル / 顔の大きさ:約0.8メートル / 股下:約3.7メートル
太腿幅:約0.9メートル / 足のサイズ:約1.1メートル / 歩幅:約3.5メートル




