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ぼくたちの黙示録  作者: 野蒜
崩壊
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第3話 不審者たち

廊下は依然として静まり返っていた。

勝治の足音が嫌に響き、どんなに忍び足をしてもその音は消えない。

汗が頬を伝い、背中を冷たく濡らしている。勝治は消火器をしっかりと握りしめ、緊張に体が固まる。


ひとまずは三階に向かい、美優やクラスメイトたちに不審者のことを伝えなければならないと、勝治は下唇を強く噛むと、歩みを早めた。


階段を上がり、三階に向かおうとしたその時だった。彼は確かに聞いた。引きずるような足音。靴のゴムが床材に擦れる不快な音が、断続的に響く。

音は主は、階段への壁の折り返し地点から現れた。


勝治の目の前に現れたのは、先ほどの不審者同様に、血と肉で汚れた初老の女性だった。

彼女の白かったであろう割烹着は、今や赤黒く染まっている。


「たぁくサァん食ベなぃトぉ」


彼女は震えながら全身の関節を鳴らし、ぎこちない動きで勝治に近づいてくる。

勝治はその場に立ち尽くした。

彼の目に映ったのは、女性の異様な目だった。


眼窩には本来あるはずの目玉の代わりに、レンゲや箸が束になって突き刺さっていた。

唯一の左目は視神経で辛うじて繋がり、頬の辺りで揺れている。


その異様な光景に、今にも叫び声を上げてしまいそうな勝治だったが、なんとかそれを飲み込み、消化器をさらに強く握ると、息を潜める。


よく見ると、目以外にも、先程出会った不審者よりも、歩いているのが不思議な程に損傷が激しく、左腕に関しては白い筋で肩からぶら下がっているのみで、時折体にぶつかってはその都度彼女は体をびくつかせる。


右往左往して時折壁に体をぶつけるその様を見て、目が見えていないのは明らかだった。


勝治はそれを知った時に、このまま通り過ぎるまで待つことを決めた。


息を止めてからはずっと肺と喉が痙攣し、今にも息を吸い込んでしまいそうなほど緊張が強まっていた。


割烹着のソレが目の前に来た時だった、ソレは目の前で立ち止まり、辺りの匂いを嗅ぐような素振りをみせ、歯をカタカタと鳴らす。


勝治はそれでも目を瞑り、心の平穏を必死に保つことに務める。


「らァめんガォおすスメェでェェ」


そんな言葉を突然勝治の顔に向けて発する、鉄臭い口臭に全身を強ばらせるが、割烹着はそのまま何かを思い出したかのように勝治の後ろの方へと廊下をすすんでいった。


ほっと息を着いたその時更に最悪なことは起こった。


先程彼女が現れた箇所から更に1人、もはや人とは思えない風貌のソレが現れた。


紺のスーツを着たソレは、彼女と同じように、両眼窩に割り箸の束が突き刺さり、涙のように赤黒い血が垂れて、引きつった表情を張り付かせた顔には青筋が浮かんでいた。


「おォォおぉォォ」


もはや言葉を発していないソレは、下半身がなく、ロープのように伸びた内臓を引きずり、少し断面から飛び出た背骨は蛇のようにうねっている。


やはりコイツらは人間では無いのだと確信した勝治は、ゆっくりと歩き出した、後ろには割烹着、前にはスーツのソレに挟まれ、緊張と恐怖は高まり、すぐにでも叫んでしまいたいが、またそれを飲み込み、勇気を持って1歩、また1歩と歩き出す。


スーツの横をゆっくりと通り過ぎていき、階段へと折り返しを曲がった時だった、階段をわざとらしく降りてくる音がけたたましく2階廊下に鳴り響く、その正体はクラスメイトの男子だった。


勝治はすぐに静かにするよう仕草で必死に示すが、そんなことお構い無しに、学ランの前ボタンを全て外した金髪の彼は、勝治を見ると笑顔を浮かべて階段を駆け下りると、勝治の左肩を叩く。


「お疲れぇ……どうした?」


男子生徒は勝治の白いシャツが赤黒い血飛沫に汚れていることに気付くと、その異変に気付いて小声になるが、もう遅かった。


勝治の後ろには割烹着を来た彼女が立ち、歪んだ笑みを浮かべると、勝治を突き飛ばすようにしてその男子生徒へと飛びかかる。


勝治は直ぐに頭を上げて立ち上がる姿勢になおり、消化器を握るが、既に彼女の牙は男子生徒の腹にくいこみ、口いっぱいに肉を含みゆっくりと咀嚼していた。


「あつっ!!なっ!なんだこれ!!」


状況を飲み込めていない彼は必死に腹を抑え、その場に倒れ込んでいる、その足元に今度はスーツの彼が忍び寄り、右足を掴むと、それに気づいた男子生徒は必死に蹴るが、肉を飲み込んだ割烹着が覆いかぶさり、それを男子生徒は必死に両手で押しかえし、泣き叫ぶ。


「なんなんだよォ!!勝治ぃ!!勝治ぃ!!」


ズボンの股間あたりは湿り、顔は涙と鼻水に濡れ、ひたすらに2人の不審者からの攻撃に抵抗する男子生徒を見た勝治は、すぐに立ち上がり消化器で覆い被さる割烹着の頭を殴りつけるが、微動だにせずひたすらに歯を打ち鳴らしている。


それでも勝治は殴り続けた、スーツも同じように殴ると、元から弱っていた様子だったからかすぐに床に突っ伏して動かなくなった。


しかし割烹着は頭が打撃で変形しても尚反応を示さず、男子生徒を喰おうと歯をカタカタと鳴らして、力を緩めようとしない。



そしてさらに強く殴ろうとした時、さらに状況は悪化した。


1階へと続く階段下から、奴らと思しき声が響き、激しい足音がなり始めたのだ、それも先程校門で見た数とは違う、もっと大勢と思われる音が。


その音を聞いた勝治は、振り上げた消化器を割烹着の頭に強くうちつけたあと、荒い呼吸を深呼吸によって整え、苦虫を噛み潰したような表情を見せると、目を強くつむり、上の階へと歩き出した。


「おい!!おい!!勝治待て!!待てよ!!おい!!」


そんな叫びを罪悪感に襲われつつも、勝治は無視して三階へと駆け上がっていった。


勝治のそんな姿を見た男子生徒は絶望感に襲われ、一瞬脱力した時、割烹着はそれを見逃さずに腹へと貪りつく。


「痛っ!!やっ、やめろ!!いてぇ!!やめ!!」


割烹着がそんな言葉を聞いたのか、顔を見せると、その顔を見た男子生徒は涙を流し、口元を歪ませる。


「ごめ、ごめんなさい……ゆるして、ごめんなさい、ごめんなさぁい!!」


そんな叫びのさなか、割烹着は彼の首元へと飛び付き貪る。


「おげ!!ごっ!ごぼェ!!げ!!」


口から血とともに言葉にならない叫びを出し、足をひたすらばたつかせる男子生徒、下の階から駆け上がってきた不審者の群れはそんな彼を見ると、身をかがめて彼を貪り出す。


腹の傷を手で無理やり広げ、臓物を引きづりだし咀嚼し、いとも簡単に上半身と下半身は別れを告げ、痙攣していた彼は直ぐにその動きを止めてしまった。


「ォかわリィクだサイ」


不審者の群れのひとりが三階の物音に気づき、頭を上げると、上を指さす。


「おュうギ会ノじかンですよォォお」


その先を見たもう1人の可愛らしいリスのエプロンを着た女の不審者が同じように指をさして、歪んだ笑みを浮かべていた。

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