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ぼくたちの黙示録  作者: 野蒜
新政府
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第24話 意味ならあります

真壁は決断した、おびただしい数の、蠢く魑魅魍魎ちみもうりょうに。


「撤退!!」


バギーを反転させ走り去る中、真壁は膝をつく勝治に向かって、挫折と怒りの入り混じった声で叫んだ。


「我々新政府は諦めない!!」


銃座の兵士が忙しなく機関銃を撃ち込むなか、勝治は振り返らず、唯と萬の元へ駆け寄る。


放心状態で両手を震わせる萬を立たせ、うつ伏せに倒れた唯の肩を抱いて何とか起き上がらせる。


そして唯が持っていた手榴弾を手に取ると、迫る大群に向けて投げた。


「すみません、こんなことになるなんて」


「喋るんじゃない」


時間差で手榴弾が爆発する、しかしそれは大群を退けるにはあまりにも無力で、勢いを止めることはできなかった。


「早く!!」


ようやく萬が建物のドアを開け、勝治と唯が死に物狂いでそこにたどり着く。


勝治の肩から力なく滑り落ちた唯を、萬が全身で受け止める。


勝治はすぐさま踵を返し、扉を閉め、近くに転がっていた錆びた鉄パイプを手すりに何本も引っ掛けて固定する。


すぐにゾンビたちが建物に激突し、すさまじい衝撃が走る、扉と鉄パイプが軋み、鉄格子の隙間から錆が飛び、窓ガラスが室内に降り注いだ。


「これは……」


なんとか足止めには成功した。しかし、脱出のために向かうべき対面の扉には、無数の机や椅子、そして大量のドラム缶が立てかけられており、今すぐに出るのは到底無理だと悟る。


それほどまでの防備がなされたこの場所、ゾンビたちがどこから現れ、どう広がったのか、勝治にはある程度の想像がついた。


恐らく街の外から来たゾンビの群れが、地下を掘って侵入したのだ。


そして感染が広がり、残った地下のトンネルは、湿度と温度、暗さが相まって、まさに“苗床”となった。


ただの推測ではあるが、目の前の現実がそれを裏づけていた、目の当たりにする景色が、勝治の思考すら押し流していく。


珍しく露骨な焦りを顔に浮かべながら、勝治はバールと素手を使ってバリケードを崩し始める。


レンガ造りの壁と広いエントランスにその音が響き渡るが、ゾンビのうなり声がすぐにそれを上書きする。


萬もそれに続き、固定されていない家具を次々と崩していく、数が多く、2人は手を血まみれにしながら無我夢中で動き続ける。


時間が止まったような恐怖と焦燥の中、ようやく扉が見えた。


その時、萬がふと後ろを見ると――ドラム缶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ唯の姿。


「ガソリンです」


力なく呟くと、唯は膝から崩れ落ちた、萬が慌てて駆け寄る。


バリケードは最低限崩れ、扉が見えた勝治はバールを差し込み、力強く引く、脂汗を流し、歯を食いしばりながら。


やっと開いた扉は、勝治が横向きで通れるほどの隙間だったが、今はそれで十分だった。


「よし、唯!萬!」


達成感に笑みを浮かべ、唯と萬の元へ走る。しかしその視界に飛び込んできたのは――信じたくない光景だった。


「ねぇ、ねぇ……」


唯の肌は青白く、呼吸は浅い。右脇腹の傷からはドス黒い血が溢れ、口元と手は痙攣している。


「血が……止まらない、どうしたらいいの!?」


医療品もなく、もし仮にこの街の医者を呼んだところで手遅れだ。撃たれた場所は肝臓付近――致命傷だった。


それでも、諦めたくなかった。


勝治はタオルを取り出し、萬に当てさせると唯を肩に担ぐ、ゾンビたちが建物に侵入してくるまで時間はないが、そんなことは気にせず扉に向かう。


その時だった、唯がライターと手榴弾を取り出した。


勝治はすぐに意図を理解し、首を振って制止するが、唯は震える手で髪を束ねた紐をほどき、手榴弾のピンを通していく、まるでリースのように。


「このまま出たって……みんな死にます」


萬も気づき、叫ぶ。


「いやだ、駄目だよ唯さん!! 一緒に逃げなきゃ!! 意味ないよ!!」


唯は萬を掴み、涙を浮かべながら言った。


「意味ならあります!!」


それは、唯の最後の強い声だった。


「貴女が……生きてここを……出ること、それが……大きな……意味です」


ドラム缶にもたれかかり、音が響く。唯は悲しげに笑った。


「かっちゃん……後悔しないようにって、竜也さん……言ってましたよね」


「あぁ」


優しく微笑んだ唯は、2人の背中を押す。


「行ってください」


その一言に、勝治は嫌がる萬を連れて扉の向こうへ走った。


だが、どうしても振り返りたくなった。


そのとき、唯は笑った。


「ありがとう、かっちゃん」


勝治は目を伏せ、息を飲み、ただ走った。







残された唯は、不思議と恐怖を感じていなかった。


けれど――手榴弾のピンを引く勇気が、今になって湧いてこない。


「あぁ、はは……弱いですね、私」


扉が破られ、手が伸びる、鉄格子が砕け、ゾンビたちが押し寄せてくる。


その時、ふと勝治との日々が頭の中を流れる、これが走馬灯なのだと理解した時の最後、普段笑顔を見せないはずの勝治の顔が浮かんだ。


 いつの記憶かは分からない、でもその記憶の勝治は、唯に向けて手を伸ばすと、唯の手を握った。


 それで決心した唯は、優しく微笑むと、震える手でピンを引き抜いた。


「私……好きなんですね、貴方のこと」


爆発の3秒前、血溜まりの中でへたりこみ、涙を流す唯は、最後のピンを左手の薬指にはめ、ライターの火を灯すと、小さく呟く。


その瞬間、ゾンビの牙が喉に食い込み――


唯の視界は、眩い閃光に包まれた。


「あぁ……まだ、死にたく、ないなぁ」


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