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ぼくたちの黙示録  作者: 野蒜
新政府
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第22話 兵士たち

虫の音が静かに響く、月夜の廃墟。

壁にもたれた勝治は、呼吸すら押し殺し、耳を澄ませていた。

誰かが来る気配を、逃すまいとして。


もう既に車のガソリンは底をつきそうになっており、近くに門を開くコロニーもあるとは思えない、農家の軽油を取ろうにも、海沿いにはそれらしいものは無い。


しばらく走って路上で立ち往生、捨てて歩くのも賢いとは言えない、理由は分からないが新政府が萬を殺そうとしている、車の追跡など容易である以上、この廃墟から歩いて向かう他ないと、勝治は考えていた。


ここで難しいことを考えるのが苦痛になり始めた勝治が、萬の唯を見る、2人は同じ大きな寝袋に包まり静かに寝ていたが、半目でほぼゾンビのような唯の寝顔から垂れ流されたヨダレが萬を襲い、眉間にシワが寄っていた。


「似てるな」


勝治はそう呟くと、萬にほんの少し近づく、髪が短いことを除けば、中学、世界が崩壊するその日に亡くなった、美優に瓜二つだった。


昔を思い出す、勝治があの中学校に入った日、とある事件のせいで小3の頃から学校には行けず、そのまま1人で教室にいた頃、声を最初にかけたのは竜也、そして美優だった。


今思うと唯も、あの時から俺を気にかけてくれていたと感じていた、その時だった、突然萬が声を出したのだ。


「ねぇ」


あまりに突然で物思いにふけっていた勝治は少し驚く。


「なんでその銃使わなかったの?」


そう言う萬の目線には、勝治の腰に下げられたソードオフショットガンだった。


「無駄遣いしたくない、音も大きいしな」


勝治は目を逸らしてそう静かに言うと、萬は寝袋から這い出ながら、顔についた唯のヨダレを拭く。


「違うね」


萬は拭き取ったヨダレの指先を見つめながら言った。


「殺すのが、怖いんでしょ」


勝治は眉をしかめた。すぐには返せなかった。


「……腹のうちが分かるまでは、でしょ?」


その言葉が、勝治の心のどこかを貫いた。


勝治は、萬のその言葉の意図が分からなかった、分からないフリをした、それは図星だったから。


一度死の1歩手間を味合わせればわかる腹のうち、それを知れば罪悪感は薄れ、たとえ善人でも、善人である故に楽に殺してやれる。


しかしそれが致命的な判断の遅れに繋がった、過去、(あつし)を見殺しにしたあの時のように。


「寝なよ」


萬は固まる勝治の懐から、いとも容易く散弾銃を取り上げると、肩に担いで口をとがらせた。


「返せ、命狙われてんだぞ」


「嫌だね、明らかに疲れてるじゃん」


そんな反抗的ながらも優しさに溢れた声色を勝治は振り払おうと声を荒らげそうになるが、萬のその立ち姿と表情みてやめた。


勝治は笑うと、自身が座っていた位置を空けて、軽く掌で払う。


「ここなら狙撃も無いだろ、なにか光ったり音がしたらすぐに言うんだ」


萬はきっと勝治は怒鳴るだろうと踏んでいた為に拍子抜けしながらも、思わぬその言葉に心躍らせてそこに座り込んだ。


「本当に、似てるな」


「え?なにに」


勝治はそれに返答することなく、大きなバックパックからタオルを出して畳むと、枕代わりにしてそのまま横になった。


そして実はこの間に目を覚ましていた唯は、微笑んでいたが、その表情何故か悲しげなものだった。




朝が来た、途中見張りを交代した唯が2人を起こし、そそくさと荷物をまとめ始める。


食事は毒島の用意した干し肉と生野菜を齧る質素なものだが、たしかに力のつくものではあった。


そしてここで勝治は2人にもう車は使えないと告げると、萬はもちろん唯まで嫌な顔をしたが、そこはなんとか勝治の説得で納得してもらうことに成功、3人はバックパックに水と食料、僅かな弾薬を詰めて歩き出した。


その時萬が何か靴を地面に擦るような仕草をしたが、勝治と唯は気にする素振りもなかった。



新政府という新たな敵に頭を悩ませる勝治たちは、この先に待ち受ける脅威の強大さを知る由もなかった。






「通信はここで切れたんだな?」


大勢居る武装した兵士の中の、背中に通信機器を抱えた1人にそう言った隊長と思しき男は、捲ったシャツの袖から伸びる腕や、開かれた首元に至るまで古傷が無数に見え、装備の上からもその鍛え上げられた肉体は垣間見えた。


無造作に伸びた髪を紐で束ね、顎には無精髭。

だがその目だけが、やけに鋭く澄んでいた。

幼い子供を睨むような眼差しで、廃墟を見つめている。


「手柄を独り占めしようとしているのでは、真壁隊長」


通信兵はその廃墟を眺めながらそう呟くと、真壁は肩に担いだライフルを構え、廃墟へ向かい、兵士たちもそれに続く。


「つまり何か見つけたということ」


空には地を焦がす太陽、ゆっくりと歩いていき、廃墟を包囲したが、人気は無い、真壁は兵士をひとり呼び、裏手に回ると、報告にない車が1台停められていた。


真壁は兵士に開けるよう手信号をだし、自身はライフルを構える、荷室のノブに手をかけ、軽く引き鍵がかかっていないことを確認、兵士は真壁を見て首を縦に降り、真壁も首を縦に振る、その瞬間に扉を開いた。


中には通信がとだえた2人が無惨に転がされていた、1人は喉を引き裂かれ、もう1人は膝に明らかな拷問の後が見られ、顔は見る影無いほど陥没している。


死体にはハエが群がり、気温のせいで既に腐敗が始まっているのが強い刺激臭を放っていた。


「これは」


「ビンゴだな」


真壁はため息をつきながらライフルを肩に担ぐと、1人の兵士が真壁の元にやってくる、なにか発見したようだ。


案内されたのはコンビニの正面の入口、その付近、固く乾いた足跡があった、大きさは小さく女性のものと思われる。


それは萬が血を踏んでしまい、拭ったものだった。


「犬に追跡させましょう」


通信兵が犬を連れてそう言うと真壁は小さく頷き、通信が途絶えた地点に停めた車に戻る。


「そう遠くは無いはずだ」


一呼吸おいて、その表情を陰に落とした真壁はドスの効いた声で呟いた。


「新政府に楯突くなら――殺すだけだ」


その声が風に流れ、灼ける太陽が廃墟を照らしていた。


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